Texas Instruments(TI)の日本法人である日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は3月28日、都内で説明会を開き、Arm Cortex-M0+搭載マイコン「MSPM0シリーズ」などの紹介を行った。
説明を行ったTIのMSPマイコン製品事業部バイス・プレジデントを務めるヴィナイ・アガルワル氏は、「電子機器は、高性能化、高機能化を実現しつつ、低消費電力化ならびに小型化を実現することが求められており、システム設計者にはそうした課題を解決する必要性が生じている」と指摘。このコストと複雑性の解決が、現在の電子機器開発の最大の課題となっているとする。
システム開発者が、何らかの機器開発を行う際には、必要とする機能を新たに開発するか、すでにあるものを使いまわすか、といったことを含め、使用するマイコンなどを決定していく。その際に、何が必要なのかを判断していく必要があるが、搭載する機能が増えれば増えるほど、その作業は煩雑なものになっていく。システム設計の際には、プロセッシング能力、機能、パッケージングの最適化を図ったうえでシステムコストの要件を満たす必要があるほか、プラットフォーム全体の要件を満たすことも求められるようになっており、半導体メーカーに対しても、より多くの選択肢と柔軟性が求められるようになっているという。
ゼロドリフト・オペアンプを搭載したCortex-M0+マイコンを発売
TIとしては、そうした組み込みシステムの開発における課題解決を支援するべく製品開発を進めており、ハードウェアのみならずソフトウェア含めてさまざまな製品を提供してきており、マイコン/プロセッサのラインアップとしてもシンプルかつ低消費電力のMSP430マイコン、高性能なC2000マイコン、Armベースマイコン、Armベースプロセッサと、細かいニーズや要件に応じるように拡張を続けてきた。TIでは、3月中旬にArmベースプロセッサの新製品「AM6xAビジョンプロセッサシリーズ」を、そして今回、Cortex-M0+ベースマイコン「MSPM0シリーズ」を発表。「ポートフォリオを拡大させていくことがユーザーにとっての将来にわたる選択肢を提供することにつながる」(同)とする。
「組み込み開発においては、設計者が作業するにあたってマイコンやプロセッサを選択するポイントは3つある。1つ目は単体製品であろうとプラットフォームであろうと、ポートフォリオに対する性能やパッケージなどの柔軟性(選択性)が確保されているかということ。2つ目は、ソフトウェアや提供されているツールを含めた使い勝手の良さであり、そうしたツールを活用することでマイコンのプログラムやコンフィグなどに時間を割くことなく、製品のイノベーションを生み出す時間に充てることができるようになる。そして3つ目は、最終製品がよりコスト効率よく提供できるようになる価格であること。今回発表した2製品ともに、これらの3つのポイントを解決したものとなる」と同氏は、今回の製品群の特徴を説明する。
MSPM0シリーズは、マイコンに同社として初めてゼロドリフト・オペアンプを搭載したほか、12ビット 4MSPSの高精度A/Dコンバータ(ADC)などアナログ信号チェーンコンポーネントの複数コンフィギュレーションや演算アクセラレーションなども搭載。これにより自動車を含めたさまざまな産業分野でのさまざまなニーズに対応できると同社では説明しているほか、さまざまな機能統合による設計の簡素化や、提供されるソフトウェアとツール群を活用することで、従来は数カ月かかっていた開発を数日に短縮することが可能だとする。また、32MHz~80MHzまで幅広いラインアップを用意し、価格も1000個注文時の単価で0.39ドルから、と安価に設定されており、すでに一部製品では提供を開始。2023年中に、100種類以上のラインアップを提供する予定だとしている。
同氏は、さまざまな電子機器でMSPM0が使えると強調するが、その一方で「顧客の開発における選択肢の幅を提供するために、広範囲にわたるポートフォリオを提供してきた。MSP430とMSPM0は被るところもあるが、それはメモリやパッケージング含めて、顧客が自身の要件を満たす最適なマイコンを選択できるようにしてきた結果であり、我々としてはどのマイコンを必要とするのかについては顧客に任せている」とし、16ビットマイコンであるMSP430も、32ビットCortex-M0+マイコンであるMSPM0も、引き続き併存させる形で提供を続けていくことを強調した。
エッジにおけるビジョン処理ニーズに対応するプロセッサを発売
一方のAM6xAシリーズは、カメラを搭載したエッジ向けアプリケーションプロセッサ。スマートシティ、スマートファクトリ、スマートホームなどの分野において、エッジの周辺で何が起こっているかを把握するためのカメラが搭載されることが多々あり、それとAIを組み合わせて状況をエッジ上で判断することが求められるようになってくる。そのためには高い処理性能を有するハードウェアが必要となり、AM6xAシリーズは、そうした今後のエッジAIにおけるビジョン処理と分析、最終的な意思決定をリアルタイムで行うことを、コストと低消費電力というニーズを満たしながら、1つのカメラなのか複数のカメラなのかを気にしないで済む拡張性も持たせた製品群だという。
AM6xAシリーズは、1台のカメラから最大12台のカメラまで処理が可能で、「これによりアプリケーションの幅を広げることが可能になる」(同)とする。ポートフォリオとしては、1~2台のカメラ向けで、消費電力も2W未満のドアベルカメラなどをターゲットとした「AM62A3/A3-Q1/A7/A7-Q1」(Cortex-A53×1/2/4、Cortex-R5F×1)、1~8台のカメラに対応し、最大8TOPSの演算性能を提供し、マシンビジョンなどのニーズに対応する「AM68A」(Cortex-A72×8)、そして1~12台のカメラに対応し、32TOPSのAI処理を提供するエッジAIや自律型移動ロボット、交通監視システムなどの高性能が求められるアプリケーションに向けた「AM69A」(Cortex-A72×2、Cortex-R5F×4)がラインアップされている。
これらの製品は、同社のオープンソースの評価ツール「Edge AI Studio」にも対応しており、複数の設計間でコードの再利用を行うことも可能だとする(公開ベータバージョンは2023年第2四半期に活用可能になる予定)。
すでにAM68Aは量産を開始しており、AM62AおよびAM69Aについては量産開始前サンプルを入手することが可能だという。また、MSPM0はLaunchPad開発キットが、AM6xAシリーズは各種スタータキットがそれぞれ用意されており、いずれも同社Webサイトなどから入手可能な状況となっている。
なお、TIは現在、新たな300mmファブの建設を複数の米国拠点で進めており、今後10~15年で必要となるアナログ製品ならびに組み込みプロセッシング製品を45nm~130nmプロセスで製造していくことで、顧客ニーズへのさらなる対応を図っていく計画としている。