NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は3月28日、1枚のSIMで複数のキャリアを利用可能なIoT(Internet of Things)機器向けのデータ通信用SIM「Active Multi-access SIM」を開発したことを発表し、東京都内の本社で記者会見を実施した。

  • NTT Com プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 IoTサービス部門 部門長 吉宮秀幸氏

    説明会に登場したNTT Com プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 IoTサービス部門 部門長 吉宮秀幸氏

近年はモバイル通信の冗長性確保を目的として、デュアルSIMに対応するスマートフォンやタブレットが登場している。こうした端末は利用者自身の操作や端末側の機能によって予備の通信キャリアに切り替えながら通信を継続利用できる。

一方で、昨今は工場や店舗でのIoT機器の利用が拡大しており、大量のデバイスがさまざまな場所に分散している。通信障害が発生した時、利用者の手によってこれらの機器の通信キャリアを切り替えることは現実的ではなく、自動的に予備の通信キャリアへと切り替えられる仕組みが必要だ。

これまでにも1枚で複数のキャリアを利用可能なSIMは存在していたが、デバイス側で通信監視の動作や切り替えの条件を設定する必要があった。しかし、同社が今回開発したActive Multi-access SIMは1枚のSIMで複数キャリアを利用でき、デバイス側でキャリアを切り替えるロジックを設定しなくてもSIMを差し込むだけで利用を開始できる特徴を持つ。

  • 「Active Multi-access SIM」の概要

    「Active Multi-access SIM」の概要

同製品はIoT機器に求められる、人の操作によらないキャリア切替を実現するため、SIM内に自律的な監視・切り替え機能を搭載している。通常時はNTT ComのフルMVNOによりドコモ回線と通信し、この間はSIM内のプログラムによって数分に1度ほどの頻度で通信確認を実施する。

通信障害の発生時などに無通信を検知すると、これをプログラムが検知し自動でTransatelのローミング接続により予備のキャリアであるKDDI回線に接続する。予備キャリアの利用中も数時間おきにドコモ回線の通信状況を確認し、ドコモ回線の復旧時には再び自動でキャリアを変更する。なお、キャリアの変更には1分半ほどの時間を要する。

同社は想定される利用シーンについて、既存のモバイル端末を継続的に使用しながら通信キャリアの冗長化を行いたいケースや、自社開発の小型IoTデバイスなど複数SIMの採用が難しいケースを挙げている。

SIM内蔵のプログラムであるアプレットは、通信監視の実施や通信キャリア情報の切り替え処理といった機能を持ち、通信障害判定時にSIM内のキャリア接続情報を書き換える。同社はアプレット領域にパートナー企業などが独自のアプリケーションを実装できるようにするために、通信プロファイルとアプレット領域を分割する技術を開発し搭載した。

  • アプレット領域をパートナー企業向けに開放するという

    アプレット領域をパートナー企業向けに開放するという

デバイスは通信プロファイル領域に記録された情報を参照して、モバイルネットワークへ接続する。アプレットによりキャリア接続情報が書き換えられることで、接続先のモバイルネットワークを遷移する。

NTT Comは同製品について、2023年度中の商用サービス開始を見据えて、6月から9月までをめどにIoT機器向けのトライアル提供を開始する。希望する企業は無償で製品を利用でき、同社はトライアルのアンケート結果などを反映しながら商用化を進める。

  • キャリア冗長アプローチの比較

    キャリア冗長アプローチの比較

説明会では、疑似的にドコモ回線に障害が発生した場合を模して、キャリアが自動で切り替わる場面のデモが行われた。

  • 「JP DOCOMO」「true」の表記から、ドコモ回線につながっていることが確認できる

    「JP DOCOMO」「true」の表記から、ドコモ回線につながっていることが確認できる

  • 疑似的にドコモ回線に障害を発生させたことで「Not Connected」となった

    疑似的にドコモ回線に障害を発生させたことで、通信が「Not Connected」となった

  • しばらく待つと「KDDI」「true」となりKDDI回線に切り替わったことが分かる

    しばらく待つと「KDDI」「true」となり、KDDI回線に切り替わったことが分かる