病院などの医療機関は、数十年前と様変わりし、今では患者の診断/治療/モニタリングは、インターネットに接続できる医療機器やデバイスを用いることが、主流となっています。これらの技術が医療水準を大幅に向上させた一方で、医療従事者、医療管理者、患者にさまざまな課題をもたらしています。しかし、幸いなことに、これらの問題はエンジニアリングや設計段階で軽減でき、場合によっては解消することができます。

そこで、コネクテッド・ヘルスケアを進化させ続けるためにメーカーが考慮すべき5つの重要事項を紹介していきます:

1. セキュリティ脆弱性に対応する

コネクテッド医療機器の53%には、患者のプライバシーと安全性を脅かす重大な脆弱性があることが調査で報告されています

医療機関は、サイバー攻撃者(ハッカー)に狙われていることを認識していますが、機器のセキュリティを強化する際に、サプライチェーンの上流の弱点を見落としがちです。これらの弱点は、サードパーティー製の組み込みシステムのプロトコルスタックの奥深くに隠されていることが多く、セキュリティスキャンでは検知されず、その後の製造過程でデバイスに入り込み、攻撃者がオンボードのセキュリティ制御を回避して、デバイスをクラッシュ、デッドロックあるいはフリーズさせることが可能になります。

こうした脅威に対抗するため、デバイスメーカーは、プロトコルファジングと呼ばれる包括的なテストメカニズムを実装する必要があります。このプロセスでは、通信交換にさまざまなエラーを印加して、接続の相手側のエンティティを混乱させ、プロトコルレベルの脆弱性を特定できるようにします。また、プロトコルのストレステストをサイバーセキュリティ検証戦略全体に統合することが最善策になります。これにより、デバイスのハッキングを継続的に防止し、コネクテッドヘルスケアのイノベーションが導入された時に、患者のプライバシーと安全が確実に保護されるようになります。

  • 未来の医療器具のイメージ

2. ポジティブなユーザーエクスペリエンスを保証する

ユーザーエクスペリエンスへの懸念に対応することも、コネクテッドヘルスケアで継続的なイノベーションをサポートする上で重要なステップです。一般的に、特定のデバイスやアプリケーションには、さまざまなユーザーが存在するため、テストという観点では難しさがあります。多くの人手をかけて手動でテストし、性能を検証することはコストと時間がかかり、毎日使うであろうさまざまなユーザー層を考慮することもできません。これらのユーザーは、訓練を受けた医療従事者ではなく、患者自身であることも多く、年齢、経歴、技術的知識の程度もさまざまです。また、多くのユーザーは、ヘルスケアアプリケーションが多種多様な物理的なプラットフォームやオペレーティングシステム(OS)上で正しく動作することを期待しています。デスクトップPCやノートPC、タブレット、スマートフォン、スマートウォッチなどのプラットフォームと、それらをサポートするOSも数多くの種類があります。

これらの理由により、ユーザーエクスペリエンスを評価するためにAI主導のテストオートメーションを使うことは効率的なアプローチと言えるでしょう。ソフトウェアベースのソリューションは、複雑なアプリケーションでより多くの経路を見つけ、可能な限りのユーザー体験をテストできます。さらに、従来のテストよりも大幅に早く結果を出すことができ、不具合が多発しているテスト領域に自動的に集中できるため、メーカーは、あらゆるユーザー層に効果的、安全、かつ有効なデバイスを期限内に提供できるようになります。

  • AI主導のテストイメージ

3. 適切なバッテリーを選択する

仕様には記載されていますが、すべてのバッテリーが同じというわけではなく、間違ったものを選ぶとデバイスの寿命や全体的な性能が低下する可能性があります。適切なバッテリーを使用するには、エミュレーションソフトウェアを使用して、実際のバッテリーのプロファイルを作成する必要があります。このプロファイルをインポートすることで、実際のバッテリーを使用することなくテストができるようになります。チームは、充電の減少に伴うバッテリーの状態を測定・記録し、バッテリーの挙動をより深く理解し、これらの洞察をもとに、デバイスに最適なバッテリーを決定することができます。

4. データ処理が増えても、シグナルインテグリティを確保する

コネクテッドデバイスでのデータ処理が増えると、シグナルインテグリティの問題を引き起こす可能性があり、革新的なテクノロジーが採用されるにつれて悪化していきます。隣接するトレースからのクロストーク、低電圧動作の基板、オンボード処理の増加などは、電気信号の品質を妨げる要因になります。スマートヘルスケア機器の有効性はシグナルインテグリティに大きく依存するため、メーカーはあらゆる問題を克服することが重要です。 最初のステップとして、ソフトウェア・エミュレーション・ツールを用いて、基板を製造する前に問題を特定/排除することで、時間とコストを削減できます。さらに、品質管理システムから学んだことを文書化することで、リスクを軽減し、製品をより早く市場投入できるようになります。

5. 測定誤差を減らし、より良い意思決定を行う

最後に、メーカーは、ドリフトなどの対策を行い、正確で一貫性と再現性のある測定を継続的に行うことが重要です。測定器が正確であること、仕様の範囲内で動作していること、認証に裏付けられたトレーサビリティがあることを確認するには、定期的かつ適切な検証が不可欠です。 さらに、定期校正により、作業を軽減し、遅延を回避し、コネクテッドヘルスのイノベーションが患者に最大の価値を提供することを保証できます。

明日のニーズにつなげる

コネクテッド医療デバイスは、今後ますます複雑化し、それに伴って市場投入までの道筋も複雑になっていくことが予想されます。そのためメーカーは、セキュリティ、ユーザビリティ、バッテリー寿命、他のコネクテッドヘルスケアに関する考慮事項を設計段階で対処する必要があることを認識しなければなりません。必要に応じてワークフローを再構築することで、安全で効率的かつ直感的な技術を開発し、市場で定着させることができるのです。

著者プロフィール

Brad Jolly
キーサイト・テクノロジー
シニア・アプリケーション・エンジニア
Brad Jolly

ミシガン大学で数学の理学士号を取得。 キーサイト・テクノロジー(旧ヒューレット・パッカード、アジレント・テクノロジー)に25年以上勤め、ソフトウェア研究開発、ユーザーインタフェース設計、製品学習、アプリケーションエンジニアリング、製品サポート、トレーニング、製品マーケティング、製品管理などを担当。