企業のサプライチェーンを取り巻く環境は大きく変化し、複雑で不安定なものになっています。不確実な時代を乗り越えるために、企業はサプライチェーンの高度化が求められています。そこで本稿では、サプライチェーンにおいて日本企業が抱える課題とサプライチェーン・プランニングの精度向上に向けた取り組みについて紹介します。
サプライチェーンを取り巻く環境と構造の変化
現在のビジネスは、サプライチェーンを取り巻く「環境と構造の変化」により、混乱を招きやすい状況にあります。
環境変化
環境の変化は、「リスク拡大によるサプライチェーンの不安定化」と「サプライチェーンの複雑化」に分けることができます。
リスク拡大によるサプライチェーンの不安定化
グローバル規模の感染症の流行や地震や水害などの天災、大国間の対立や軍事的な衝突といった地政学的リスクの拡大、また消費者ニーズの短サイクル化など、世界的なリスク拡大により、サプライチェーンの不安定化が進行しています。
サプライチェーンの複雑化
デジタルシフトに伴う販売チャネルの拡大やサービスの多様化により、サプライチェーンに対する企業側の要求が複雑化しています。また、人権や環境、気候変動など、環境・社会・ガバナンス(ESG)に配慮した事業活動の継続や社会課題への対応も迫られています。
構造変化
一方、構造の変化は、「サプライチェーンの単線・集約化」「連鎖しやすいネットワーク構造」に分類できます。
サプライチェーンの単線・集約化
これまで経済合理性を重視してサプライチェーン構造を集約化してきたことで、サプライチェーンの柔軟性が失われ、これが逆に生産上の大きな脆弱性となっているケースが増えています。
連鎖しやすいネットワーク構造
工業製品の生産にあたり、部品や原材料ごとに多国間で得意な物を生産し輸出入し合う、産業のグローバル分業が進展したことにより、各地のサプライチェーン機能が連鎖反応を引き起こしやすくなっています。
高まる「調達・生産の安定化」への対応
サプライチェーンリスクとしては、前述した「環境変化」や「構造変化」に加えて、素材・部品の供給不足や、物流遅延などの「調達・生産リスク」も発生しています。例えば、産業のデジタル化に伴う半導体・電子デバイスなどの産業共通部材のひっ迫が生産活動のボトルネックとなったことがよく知られています。そして最近は、同様の課題を持つお客様と「調達・生産の安定化」に向けた対策について、相談させていただく機会が増えています。
こうした課題に対しては、「需給計画精度の向上」と、それに必要な鮮度の高い実績データを取得するための「End to Endでのサプライチェーン情報の可視化」の2つの取り組みが重要だと考えられます。
生産計画・調達計画の土台となる「需給計画」の精度向上が、「調達・生産の安定化」にとって重要であることは自明であると言えます。では、「需給計画の精度向上」のために必要なこととは何でしょうか。
まず、川上にある調達に関する計画情報と、川下にある販売に関する計画情報を集めて、さらに鮮度の高い在庫の情報、生産状況、調達状況が把握できて初めて、需給計画に即した自社製品の供給を精緻に分析できます。
さらにサプライチェーンの混乱が起きている今日では、この需給計画の精度をより精緻なものにする必要があります。それには、効率よく短いサイクルで分析を行い、自社製品の供給に影響を与える問題を発見し、必要な対応を行えるかが大事になってきます。
必要なデータの種類、鮮度、所有者の特定と合意
続いて、「需給計画精度の向上」と「End to Endでのサプライチェーン情報の可視化」の実現するためのポイントを紹介します。
「需給計画の精度向上」では、前述のとおり、Production(生産)、Sales(販売計画)、Inventory(在庫)のPSI管理やS&OP(Sales and Operations Planning)に関するアプリケーションなどが必要になってきます。ただし実際には、こうしたアプリケーションが力を発揮できるよう、必要な鮮度高いデータを収集しておく必要があります。
そのため、必要なデータは何なのか、誰が持っているのか、どのような頻度で必要になるのかなどを特定し、さまざまなプレイヤーから協力を得る必要があります。
協力を仰ぐプレイヤーとは相互にWin-Winな関係を築けるよう、依頼元からの情報(計画)提供や、調達計画数に対する買取率の確約ルールを決めるといった、インセンティブが働くような条件も必要となってくるかもしれません。
サプライヤーとの情報の連携対象を拡張
こうした連携を可能にするためには、今まで提供してもらっていなかった「販売計画」などの計画系情報以外に実行系の「在庫情報」や、「生産リードタイム(LT)情報」などを加える必要がでてきます。
また、需要が高まった際の供給可能量を把握できるように、従来の所要計画のみではなく、サプライヤーなどからの回答を求める内示関連のプロセスを追加することも「生産・調達の安定化」につながるため、既存のプロセスを再考することもお勧めします。
サプライヤーの状況に合わせた情報連携方法を提供
サプライヤーの協力を得やすくするため、各社の状況に応じた連携方法を用意することも大切です。
下図のように、サプライヤーに対する情報連携の方法は3通りあります。すでにシステムで管理できているサプライヤーに対しては、情報連携できるインタフェースを開発して「システム・データ連携」を行います。また、システムとマニュアルの両方で作業を行っているプレイヤーとは、「データファイルのアップロード/ダウンロード」による情報連携を行います。さらに、Excelなどを使いマニュアルで管理しているプレイヤーには、情報をそのままコピー&ペーストできる「入力画面」を提供します。
システムとデータを統合・連携する基盤を採用
不確実性の高まる現代においては、従来のサプライヤー以外のプレイヤーからも情報を集めてくる必要があります。なお、そのプレイヤー達はさまざまなシステムで業務を進めているため、情報の中身は同じでもデータの形式が異なるといったことが多々発生します。
かといって、これらのデータ連携をサプライヤーごとにポイントtoポイントで実装すると、時間がかかる上、運用に煩雑さをもたらし、継続性の低さや属人化によるブラックボックス化を招きがちです。
そのため、ほとんどのケースでは、システムとデータの統合・連携を集約できるデータ統合・連携基盤を採用することが必要となります。
クラウドコンピューティングの時代において、この基盤には、以下の4点が必要になるでしょう。
- 各プレイヤーと迅速かつ柔軟に情報連携が始められる接続性
- 各プレイヤーとの接続において安全性と可用性を確保できること
- データ変換やデータの品質チェックの機能を有し、自前開発が必要ないこと
- クラウド型サービスで提供されること
こうした基盤を構築して、サプライチェーンを構成するプレイヤーから提供される情報やデータを適切に収集し、自社の方向性と業務や組織の在り方を作り込んだうえで、データとテクノロジーを掛け合わせによる「サプライチェーン・プランニングの精度向上」を実現しましょう。