国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は20日、将来の大きな被害を防ぐ目標である「産業革命前からの気温上昇幅1.5度」を今後超えてしまう可能性が高く、これを防ぐためには2030年に世界の二酸化炭素(CO2)排出量を半減させる必要があるとする最新の報告書を公表した。報告書は今後10年の対策が(人類や地球に)数千年にわたり影響を与えると強調し、世界各国に対策の加速を迫った。国連のグテーレス事務総長は「気候の時限爆弾の時計が刻々と進んでいる」と危機感をあらわにした。
気候変動による大きな被害を避けるための国際枠組みであるパリ協定は、今世紀末の気温上昇を産業革命比で2.0度未満、できれば1.5度に抑えることを目指している。IPCCはこれまでの報告書の中で人類への大きな影響を少なくするためには1.5度までに抑える必要性を指摘。現在はこの「1.5度」が世界の目標になっている。
報告書はまず、人間活動による温室効果ガスの排出が地球の温暖化をもたらし、気温は既に1.1度上昇していると明記。各国が国連に提出した温室効果ガス対策では今世紀中(早々に)1.5度を超えてしまう可能性が高く、2度未満にすることも難しいと指摘した。現在の各国の対策ではパリ協定の目標を達成することはできないと断じた形で、各国の対策が強化されないまま温室効果ガスが排出され続けると、今世紀末に最大3.4度も上昇してしまうと予測した。
対策として1.5度に抑えるためには、19年と比べたCO2排出量を30年に48%、35年に65%、40年に80%、50年に炭素ゼロに近い99%、それぞれ減らす必要があるとした。また、メタンなどを含む温室効果ガス全体の排出量は30年に43%、35年に60%、40年に69%、50年に84%、それぞれ減らさなければならないとした。そして気候変動による大きな被害を防ぐためには今後温室効果ガスの大幅削減が求められる、と詳しい分析データを示しながら強調している。
報告書はこのように、現状では人類にとって厳しい見通しと、気候変動による甚大な被害を防ぐためには容易ではない対策を大胆に進めるしかないことを詳細に記述している。
その一方で甚大な被害を回避する排出量削減への具体策も列挙した。特に低いコストで実施できる対策を示し、100ドル以下でできる安価な対策があると指摘。再生可能エネルギーの太陽光発電や風力発電を徹底して普及させることにより、年40億トン前後削減できるなどとしている。
この最新の報告書の正式名称は「第6次統合報告書」。2021年8月から22年4月にかけてIPCCが公表した3つの作業部会の報告書を基に、世界の90人以上の科学者が最新の知見を加えてまとめた。統合報告書としては14年の第5次統合報告書以来9年ぶりで、世界各国で気候変動による豪雨・洪水や熱波、干ばつといった極端な気象現象が頻発する中での公表になった。
グテーレス事務総長は報告書公表に合わせてメッセージを公表した。この中で「人類は薄い氷の上にいて、その氷は急速に溶けている。過去半世紀の気温上昇率はこの2000年で最も高く、CO2濃度は少なくとも過去200万年で最高になっている。気候の時限爆弾の時計が刻々と進んでいる。そうした中でこの報告書は時限爆弾を解体するガイド本で人類のサバイバルガイドだ」などと述べている。
気候変動枠組み条約に参加する各国は現在の対策を見直し、35年を期限とする削減目標を策定して25年までに国連に提出しなければならない。危機感に満ちた今回の報告書は各国の対策策定にも影響を与えるとみられる。