東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)と国立天文台(NAOJ)の両者は3月23日、超新星の元素合成の理論計算を使って、低金属量の星々の化学組成から第1世代の恒星「ファーストスター」の物理的特性を解析するAIアルゴリズムを開発。超新星の元素合成理論でありうる化学組成比をすべて使って、10個のサポートベクターマシーンの集合体を学習させ、それを用いて太陽系近傍の450以上の低金属量の星の化学組成を解析したところ、サンプルの68%の星々は複数の超新星の影響を受けていることがわかったと共同で発表した。
同成果は、Kavli IPMUのTilman Hartwig客員科学研究員、同・野本憲一客員上級科学研究員(兼東大名誉教授)、同・石垣美穂客員准科学研究員(NAOJ 助教兼任)、同・小林千晶客員上級科学研究員(英・ハートフォードシャー大学兼任)、同・富永望客員上級科学研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
ビッグバンによって作り出されたさまざまな素粒子のうち、クォークが3個集まって陽子が形成され、宇宙が十分に冷えた約38万年後には、その単体の陽子が電子1個を獲得して水素原子となった。それに加えてヘリウムも生成され、またわずかではあったがリチウムも生成されたと考えられている。このことはつまり、ファーストスターが輝き出した際、その成分には現在の我々の身体を構成する炭素や窒素、酸素、リン、カルシウム、鉄などはまだ含まれていなかったことを意味する。
その後ファーストスターの核融合で、鉄までの元素の多くが作り出され、超新星爆発によってそれらが宇宙にばらまかれていった(同時に、超新星爆発はコバルト以降の元素も作り出した元素合成の現場の1つとも考えられている)。こうして、2世代目以降の星には重元素(天文学においてはまとめて「金属」と呼ばれている)がわずかずつ増えていった。そして、それを繰り返すことで、現在は太陽のような金属元素の多い星が一般的となっている。
現在のところ、どのような観測装置を用いてもファーストスターの直接観測に成功していないため、その性質は謎に包まれている。そこで注目されているのが、世代的にファーストスターに近いと思われる、金属量の少ない星々である「超金属欠乏星」だ。これらは天の川銀河でも観測されており、ファーストスターの作った元素しか含まないガスからできたと考えられている。その元素組成を調べることで、ファーストスターの質量や超新星爆発についての手がかりが得られるとして、研究チームは今回、機械学習を用いて、超金属欠乏星の元素組成データから未知のファーストスターの性質を解明する新しい手法を開発したという。