東京大学 生産技術研究所(東大生研)は3月23日、パワー半導体のオン・オフの切り替えを行うスイッチング時に生じるエネルギー損失を、ゲート端子を駆動させる電流波形を自動的に適切なタイミングで複数回変化させることで、最大49%削減した「自動波形変化ゲート駆動ICチップ」を開発したことを共同で発表した。
同成果は、東大生研の高宮真教授、同・畑勝裕助教、東大大学院 工学系研究科 電気系工学専攻の張狄波大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、3月19日から23日まで米フロリダ州オーランドで開催された国際学会「IEEE Applied Power Electronics Conference and Exposition」にて口頭発表された。
現在、世界的なCO2排出削減に向け、さまざまな機器の電子化ならびに省エネルギー化が進められている。例えばSiCはその耐圧性能がSiよりも高いこと、ならびに温度耐性が高いことからシステム全体としての冷却コストの低減などを図ることができるため、次世代のパワー半導体として活用が期待されている。研究チームでは、そうした動きの中、システム全体の低電力化を果たすべく、パワー半導体を駆動させる「ゲート駆動」に着目し、その回路の低消費電力化を目指す研究を進めてきたという。
パワー半導体は3端子のスイッチ素子で、ゲート端子の電圧をゲート駆動回路で変化させることで、スイッチのオン・オフを切り替える仕組み。このオン・オフを切り替える回路がゲート駆動回路で、従来のゲート駆動回路では、パワー半導体のオン・オフを切り替えるスイッチング時に生じるエネルギー損失と、スイッチング時に生じる瞬間的に定常状態を超えて流れる大電流や瞬時的な高電圧といったノイズはトレードオフの関係にあり、損失が小さいとノイズが大きく、ノイズが小さいと損失が大きいという二律背反が生じていた。理想は、ノイズも損失も抑えたいが、実際には回路の仕組み上、それができなかったという。
この課題の解決に向けた研究として、ゲート端子を駆動する電流波形を時々刻々と動的に変化させることで、損失とノイズの両方を減らすといったことが各所で進められてきた。研究チームでもすでに、ゲート電流波形を時々刻々に変化させることがえdきる波形制御デジタルゲートドライバ技術を開発、ゲート電流をパワー半導体のターンオン・オフ時に複数回変化させることで、ノイズと損失の両方を低減できることを確認したことを報告していた。
ただ、この場合、実用化にあたってはパワー半導体が温度などの動作条件が変わると、最適な駆動波形も変化してしまい、その条件ごとに最適なパターンを用意することは相当な労力を要することが課題とされていた。