前編では、2023年におけるデータ活用のテクノロジートレンドを紹介しました。後編ではデータ戦略、効果的なイノベーションの基礎となる「アンチフラジャイルな組織」について説明します。

レジリエンスとイノベーションは両立しない?

ロシア・ウクライナ戦争による世界情勢の不安定化、中央銀行による積極的な金融政策、経済の成長不安という深刻な事態が続き、世界経済が先行き不透明な中でも、アジア地域の成長は、比較的明るい側面を保ち続けていました。

しかし、国際通貨基金(IMF)が昨年10月に発表したアジア太平洋地域における経済見通しに関する報告書「Regional Economic Outlook: Asia and the Pacific, October 2022」は、世界的な金融引き締め政策、ウクライナ戦争、中国経済の急減速などが逆風となり、アジアの成長は鈍化する、と予想されています。

2023年に、日本を含むアジア太平洋地域は、インフレ率の上昇と実質経済成長率の低下を特徴とするスタグフレーションのような経済環境に直面する可能性があり、企業はインフレで引き起こされる不況の可能性を危惧しています。

自然な流れでは、財務内容を精査し、企業の支出を抑制、新規事業を一時停止して事業のレジリエンス(回復力)を高めることを優先するのは自然な流れです。しかし、将来が不透明で変化が激しい世の中でも短期的に達成できる経営効率を重視し、イノベーションを疎かにすることは、長期的なビジネスの成功にとっては不利になります。

イノベーションとレジリエンス

よく言われる格言に「計画なくして成功なし」というものがあります。事業を評価し、計画する時の指標の1つとしては組織のレジリエンスがあります。レジリエンスを「環境の変化に耐えて、なお機能する組織の能力」と定義する人もいれば「進化し、機敏性を高め、新しい働き方に素早く適応する組織の能力」と定義する人もいます。

いずれにせよ、すべての定義に共通する特徴は、レジリエンスの高い組織は困難な時代にも生き残り、さらには成長し続け得るということです。

新型コロナウイルスの世界的な流行がブラックスワン現象であったとしても、組織は、潜在的な脅威や災害を必然的に生じるものとして捉える必要があります。

「もし」ではなく「いつ」の問題です。経済が不安定な時期には強力な財政政策が必要ですが、イノベーションを排除することは、組織のレジリエンス(回復力)を低下させる可能性があります。

このような状況では、イノベーションを排除するのではなく単に抑制することが、より堅実なアプローチとなる可能性があり、その方が新しい機会を活用するためのアジリティを組織に与えることができるかもしれません。

アンチフラジャイルな組織

レジリエンスを考えるとき「antifragile(Anti-Fragile、アンチフラジャイル)」という言葉を思い浮かびます。米国の研究者であるナシム・ニコラス・タレブ(Nassim Nicholas Taleb)氏の同名の本で有名になった「antifragile」は「混沌から得るだけでなく、生き残り、繁栄するために混沌を必要とするもののカテゴリ」と定義されています。

アンチフラジャイルであることは、レジリエンスや堅牢性を超えるものです。レジリエンスとは「衝撃に耐える」「変わらない組織」のことであり、アンチフラジャイルな組織とは、衝撃により、改善・進化し、より強くなる組織といえると思います。

「アンチフラジャイル」の概念を組織に当てはめると、改善すべき点に次のことが考えられます。

  • 製品、サービス、チャネルの多様化
  • プロセスや手動タスクの自動化を含むDXの加速
  • 柔軟なハイブリッドクラウドアーキテクチャおよびテクノロジーの採用
  • 労働条件や制約が突然変わっても、ビジネスの生産性への影響が最小限となるような、柔軟で生産的なハイブリッドな勤務形態の採用
  • データを活用してイノベーションループ時に迅速に学習し、組織内のあらゆるレベルでより良いビジネス判断を下すための革新的でアジャイルなデータプラクティスの確立

イノベーションとアジリティをデータ戦略に体系化

Clouderaのエンタープライズデータ戦略の成熟度と業績の相関関係について調査した「エンタープライズ データ成熟度レポート」によると、IT意思決定者の91%がビジネスレジリエンスの向上にはデータ戦略が鍵になると回答しています。

組織が業務効率を高めるには、あらゆる部門に組み込まれた総合的な戦略を通じてデータを戦略的なビジネス資産として扱う必要があります。

よく考えられたデータ戦略は、組織が解決しようとしている主要な課題や機会を、それらに対処するための社内教育や方針、一貫した一連の行動なども含めて綿密に計画したものです。データ戦略は、組織のクラウド戦略やデジタル戦略とも整合している必要があります。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速と顧客接点の増加により、エンタープライズデータは爆発的な勢いで増加しています。IDCの調査によると、2025年には全世界で収集されるデータの80%が非構造化データになると予測しており、組織がデータを収集してインサイトを獲得し、可能であれば収益化できるような機会が訪れます。

構造化データと非構造化データから重要な実用的インサイトをタイムリーかつ正確、安全に導き出すことができれば、組織はより優れたデータ主導の意思決定を行い、アジリティとレジリエンスを高めることができます。

たとえば、Clouderaのユーザー企業である、韓国の通信サービスプロバイダーのLG Uplusは、世界初の5Gサービスを開始するにあたり、さまざまなデータニーズに対応することが課題となっていました。

無線の総加入者数が約1,700万人、5G加入者数350万人を擁し、各種サービスの分析と顧客のDXタスクの実行のために、5Gおよび既存のLTEサービスからのデータをスムーズに管理できる新しいビッグデータシステムを求めていました。

LG Uplusでは、ネットワークリアルタイム分析プラットフォームと専用の分析環境を構築し、サービスや顧客のモニタリングをほぼリアルタイムに行えるようになりました。

毎日400TB(テラバイト)以上のデータを取り込み、収集できるためカスタマーセンターネットワークの応答時間を2日から5分に短縮するなど、作業効率とデータに基づく高度な意思決定が向上しました。また、LG Uplusは生産能力を増強し、ネット推奨顧客スコア(NPS)を10%以上向上させることにもつながりました。

「新たな財産」としてのデータ

データは、顧客中心の文化を醸成し、自動化アプリケーション、AI、機械学習などの新たな技術的ユースケースを支え、組織の意思決定を迅速化することで、新たな成長を促進させることもできます。

Clouderaのユーザー企業であるタイの石油・小売企業のPTT Oil and Retail Business Public and Company Limited(以下、OR)は、差し迫る景気減速と予想より低い2022年国民消費回復率に直面したことを背景に、データ分析能力の強化を通じて国内初の小売・給油統合カスタマーエクスペリエンスを実現するという自社データ資産の活用機会を見出しました。

ORは、タイ石油公社(Petroleum Authority of Thailand Public Company Limited)の石油事業と小売事業を統合して創設されたため、ガソリンスタンドとカフェの併設など、連携している事業の経営がより密接になりました。

そのようなことから、ハイブリッドデータアーキテクチャを補完するために、オンプレミスおよびクラウドベースのデータ活用能力を備えたプラットフォームを求めていました。

新たな技術適用をサポートし、ビジネス戦略を実現できるようにするため、このプラットフォームは、エンタープライズデータを民主化し、適切な構造化データによって分析を強化する必要がありました。

Cloudera Data Platformの段階的導入により、新しいデータおよび分析プラットフォームが強化されれば、ORは顧客をより明確に把握できるようになりました。ORは1,900軒のガソリンスタンドと3,000店の小売店舗の全体に、統一かつパーソナライズされたエクスペリエンスを提供して顧客エンゲージメントを強化しています。

データアナリティクスの最適な活用により、ORのデジタルインフラストラクチャ全体のトランスフォーメーションも推進され、AIやジオアナリティクスなどの最新テクノロジーを利用した業務プロセスの加速化を図ることも可能になります。

最新のデータアーキテクチャの提供を可能にする「統合データプラットフォーム」による強化

データから価値を得ることは、複雑かつ煩雑です。多くの場合、データは複数のソースから集められ、保護・キュレーション・処理される必要があります。このフローは、大規模かつ豊富なデータセットで、さらにリアルタイムで行う必要が高まっています。

すべてのデータ資産を明確かつ統一的に把握することは、信頼度の高い方法で意思決定を行うことは、信頼度の高い情報を得るための基礎となります。

さらに、データファブリック、データメッシュ、データレイクハウスなど最新のデータアーキテクチャをパブリッククラウドとオンプレミスに実装できることは、組織にとって最大の柔軟性をもたらします。

強力なデータ戦略、効果的なイノベーションと迅速な対応力は、アンチフラジャイルな組織の基礎となるものです。2023年には、これを支えるテクノロジーとアジャイルな革新的データプラクティスが重要な役割を果たすと考えています。