欧州宇宙機関(ESA)などは2023年3月3日、昨年12月に発生した、小型固体ロケット「ヴェガC」の打ち上げ失敗について、原因の調査結果を発表した。

問題が起きたのは第2段モーターのノズルにあるスロート・インサートという部品で、材料の品質に問題があり破損したとしている。また、もともとの要求仕様も間違っていたという。

この部品はウクライナ製で、今後は欧州製に切り替えることで対応するとしている。一方、ウクライナ側は「結論を出すのまだ早く、我が国の宇宙産業の評判に悪影響が及ぶ」と非難する声明を出すなど、混乱も起こっている。

  • ヴェガC VV22の打ち上げ。この約2分24秒後に異常が発生し、打ち上げは失敗に終わった

    ヴェガC VV22の打ち上げ。この約2分24秒後に異常が発生し、打ち上げは失敗に終わった (C) Arianespace

ヴェガC V22の打ち上げ失敗

ヴェガC(Vega C)はESAが開発した小型ロケットで、欧州にとって基幹ロケットのひとつに位置づけられている。イタリアの航空宇宙メーカー、アヴィオ(Avio)がプライム・コントラクターとなり、欧州各国とウクライナの複数の航空宇宙メーカーが開発、製造した。運用はアリアンスペースが担当している。

ロケットの全長は34.8m、直径は3.3m。ロケットは4段式で、1段目から3段目までは固体ロケット、4段目のみ液体ロケットを使う。

従来運用されていた「ヴェガ」をベースに改良されており、第1段や第2段の固体モーターを改良、大型化するなどし、打ち上げ能力が向上。また開発中の大型ロケット「アリアン6」との部品の共通化により、シナジー効果によるコストダウンも図っている。これによりヴェガよりも打ち上げ能力が向上しながら、打ち上げコストは据え置きとなっており、コストパフォーマンスが向上している。

高度700kmの太陽同期軌道に約2300kgの打ち上げ能力をもち、さまざまな小型・中型衛星の打ち上げ需要に応えることが可能で、欧州の官需衛星の打ち上げから、欧州内外の民間の衛星の商業打ち上げまで、幅広い活躍が期待されている。

ヴェガCの初打ち上げは2022年7月に行われ、無事に成功。同年12月21日(日本時間)には、地球観測衛星「プレアデス・ネオ」を2機搭載した2号機が打ち上げられた。

しかし、第1段の飛行は正常だったものの、第2段の固体ロケットモーター「ゼフィーロ40(Zefiro-40)」の燃焼中に異常が発生。予定していた飛行経路を外れて飛行を始めた。最終的に飛行を中断する信号が送られ、打ち上げは失敗に終わった。

ヴェガCを開発したESAと、運用を担うアリアンスペースは、即座に独立調査委員会を立ち上げ調査を開始。そして3月3日、その結果が発表されるとともに記者会見が開催された。

発表によると、まず初期調査では、離昇から151秒後にゼフィーロ40のチャンバー圧が徐々に低下していたことを確認。そこから、飛行中にノズルが徐々に壊れていったと推定された。

より詳しい調査の結果、ノズルに付いている「スロート・インサート」という部品で、想定外の熱・機械的な過溶融(エロージョン)が発生したことがわかったという。スロート・インサートは、高温の燃焼ガスからノズル本体を守るための耐熱部材のことで、ゼフィーロ40では材料に炭素繊維強化炭素複合材料(カーボン・カーボン、C/C)が使われている。

そして委員会は最終的に、このC/C材の均質性に問題があったことが原因である可能性が高いと結論づけた。また、C/C製スロート・インサートの要求仕様が適切ではなかったことも明らかにされた。このスロート・インサートは、ウクライナの宇宙企業ユージュノエによって製造されたもので、アヴィオが調達し使用されていた。

要求仕様が誤っていたにもかかわらず、これまでに認定試験を通過し、初打ち上げも成功した理由については、「認定試験と初打ち上げで使用されたC/C材は、仕様以上に優れた出来で造られていた(過剰品質だった)ため、エロージョンは出なかった。しかし2号機の材料は、仕様と『正確に一致』していたために(エロージョンが出て)失敗した」としている。

これを受け委員会では、今後はユージュノエC/C材は使用せず、欧州の宇宙企業アリアングループが製造する別のC/C材に置き換えるとしている。このアリアングループ製のC/C材は、先代のヴェガの第2段と第3段モーターのノズルに使用されており、十分な実績があるという。

また、ゼフィーロ40に設計上の問題は見つからなかったとし、あくまで製造上の問題であったと強調している。

委員会はまた、今後に向け、新しいC/C材が適切かつ堅牢であることを確立するため、追加の試験と分析を行うこと、このC/C材を使った新しいゼフィーロ40モーターについて追加で検証を行うこと、そして長期的な信頼性と製造の持続可能性を保証するための作業を行うことなどを勧告している。

こうした調査結果と勧告を受け、ESAとアリアンスペースからなるタスクフォースでは、勧告の実施と、アヴィオが実施する作業を全面的にフォローし、信頼の回復、堅牢性の確保に全力であたるとしている。

ヴェガCの打ち上げ再開は2023年末を目標とするという。

なお、先代のヴェガは2機が残っているが、ゼフィーロ40やウクライナ製C/C材は使われていないため、打ち上げには影響しないという。このため2023年の夏の終わりまでに、1機の打ち上げを計画するとしている。

  • ヴェガC の第2段モーターの「ゼフィーロ40」

    ヴェガC の第2段モーターの「ゼフィーロ40」 (C) ESA - M. Pedoussaut