3月16日に、新構造材料技術開発組合(東京都千代田区)は2013年11月から約10年間にわたって研究開発を続けていた「革新的新構造材料等技術開発」プロジェクトの「最終成果シンポジウム」を東京都千代田区内幸町で開催し、各構造材料の開発成果を報告した。そして同報告会の参加者などと議論して、今回達成した開発成果内容などを確認した。
この「最終成果シンポジウム」の冒頭では、同技術開発組合の兵藤知明プロジェクトマネージャーが「革新鋼板」と呼ぶ自動車向け超高強度鋼板の開発成果を報告した。現在は、自動車車体向けには590MPa級の鋼板などが車体や骨格部などのポイントとなる重要部材・部分に用いられている。これに対して、炭素(C)量が0.3から0.7質量%という中・高炭素量をベースに、高価な添加元素を用いずに、「引っ張り強さ1.5GPa以上(1500MPa)、伸び20%以上の“革新鋼板”を鉄鋼メーカー3社がそれぞれ異なる研究開発戦略でそれぞれ開発に成功した」と報告した。そして「引っ張り強さ1.5GPa以上(1500MPa)、伸び20%以上の性能は世界最高クラスの性能だ」と、日本の研究開発成果の独自性を強調した。
開発に成功した鉄骨メーカーは神戸製鋼所、JFEスチール、日本製鉄の3社。神戸製鋼所は、炭素0.4質量%の組成で、引っ張り強さ1.5GPa、伸び24%を実現した(ただし現状は研究室レベル)。この革新鋼板は鋼のマルテンサイト相組織(一部はベイナイト相)に残留オーステナイト組織を混在させるように、加工硬化現象を利用する手法で開発した。「残留オーステナイト組織が一様ではなく異なる状況になっている点が開発成功のポイントになっている」と解説する。
一方、JFEスチールは炭素0.3質量%の組成で、引っ張り強さ1.5GPa、伸び23%を実現した。この革新鋼板は残留オーステナイト組織とマルテンサイト組織の複合相を最適化する組み合わせで実現した。「炭素の分布を精密に観察する手法を実現した開発成果だ」という。
日本製鉄は炭素0.5~0.7質量%の組成で“フル”マルテンサイト組織というまさに革新的な組織・熱処理によって、引っ張り強さ1.5GPa、伸び20%を実現した。鋼組織の粒界に偏析する元素の偏析を無くしたり、無害化するなどの手法によって実現した模様だ。
この鉄鋼メーカー3社のそれぞれの革新鋼板の開発は「残留オーステナイト組織によって延性を確保し、粒界偏析する元素を最適化してマルテンサイト組織を高延性化できた成果だ」と、兵藤知明プロジェクトマネージャーは解説する。「高価な添加元素を用いずに、革新鋼板を実現するめどをつけた点が、元素戦略上、大きな開発成果になる」ともしている。
この兵藤知明プロジェクトマネージャーの成果報告に対して、鉄鋼材料の識者である九州大学の高木節雄名誉教授と物質・材料研究機構(NIMS)の長井寿名誉研究員の2人が登壇し(図2)、今回の成果である革新鋼板を日本の鉄鋼メーカー3社がそれぞれ異なる研究開発手法で開発したことにコメント。長井名誉研究員は「鋼中の炭素元素の分布を精密に観察できる技術開発の成果が効いた優れた研究開発成果だ」とコメントした。