FLOSFIAとJSRの両者は3月15日、パワー半導体向けとして、コランダム型酸化ガリウム「α-Ga2O3」(以下「酸化ガリウム」)と組み合わせて使う新規P型半導体である、酸化イリジウムガリウム「α-(IrGa)2O3」の量産における課題を解消するため、新しいイリジウム系成膜材料を開発したことを共同で発表した。

酸化イリジウムガリウムの産業応用においては、量産性の面で、以下の3つの課題を抱えていたという。

  1. イリジウム源として知られているイリジウムアセチルアセトナート「Ir(acac)3」が水に対する難溶性が高く、結晶成長レートが酸化ガリウムの結晶成長レートの十分の一以下と遅く、生産性に欠ける
  2. 結晶成長の際のカバレッジが悪く、トレンチ内部への安定的な成膜が困難
  3. トレンチ内部の埋め込み効率が悪いことから、1回の成膜に必要なイリジウム成膜材料の使用量が多い

イリジウムは生産量が少なく、金や白金などと共に8種類ある貴金属に含まれ、隕石中(または地球深部)に多く見られることで知られる。半導体としての量産適応例はなく、イリジウム源として入手可能な原材料が限られていることもあり、今回の共同開発に際しては、まったく新しいイリジウム系成膜材料の開発に取り組むことにしたとする。

今回開発された新材料は、(1)高速結晶成長レート(従来比で10倍以上)の実現、(2)トレンチ内部へのカバレッジ性能の向上、(3)イリジウム系成膜材料の使用量の低減の3点を達成し、上述した課題が克復されたとする。その結果、酸化ガリウムデバイスへの新規P型半導体、酸化イリジウムガリウムの量産適用の可能性が劇的に上がったという。

なおFLOSFIAでは、酸化ガリウムと組み合わせて使う良質なP型半導体の酸化イリジウムガリウムが、「ジャンクションバリアショットキー(JBS)構造」での動作実証に成功したことを2023年1月に発表済みだ。同P型半導体はウルトラワイドバンドギャップ半導体で、バンドギャップは約5eVと極めて大きく、ホール濃度は1×1019cm-3と高濃度であることが確認されており、高電界を前提とした幅広いデバイス設計に適用可能であることが示唆されている。今回、量産性の課題を解消する道筋ができたことにより、100kHz以下の周波数領域で用いるインバーターやそのほかの幅広い電力変換器への早期適用が可能となるとした。

  • (左)今回、新規イリジウム系材料を用いて、トレンチ内部への酸化イリジウムガリウムの高品質な埋め込み成長が成功した。(右)酸化イリジウムガリウムのデバイス活用(JBS構造)

    (左)今回、新規イリジウム系材料を用いて、トレンチ内部への酸化イリジウムガリウムの高品質な埋め込み成長が成功した。(右)酸化イリジウムガリウムのデバイス活用(JBS構造)(出所:JSR Webサイト)