東北大学とオリエンタル白石の両者は3月14日、耐久性に優れたコンクリートの開発や、作物と魚を同時に育てる水耕栽培「アクアポニクス」へのファインバブルの応用などを目的とした共同研究の中で、50nmよりも小さなナノバブルにカリウム(K+)イオンを含有させて使うことで、最低で20%ほどの発芽率といわれる難発芽性種子である本ワサビの発芽率を、70%へと向上させることに成功したと共同で発表した。

同成果は、東北大 未来科学技術共同研究センターの高橋正好特任教授、オリエンタル白石の金美貞氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

アクアポニクスは、魚の排せつ物を栄養素にしてレタスなどの野菜を育てると同時に、野菜により水が浄化されて魚を健康に育てる水耕栽培と魚の養殖を組み合わせたシステムだ。そして、そこで使用する水にナノバブルを導入するための技術開発を共同で進めてきたのが研究チームである。

研究チームは、アクアポニクスを実現させるための基礎技術の開発にも取り組んでおり、その1つに植物の種子の発芽促進がある。今回の研究では、発芽が非常に難しいとされる本ワサビを対象とすることにしたという。通常の作物は発芽率が8割以上あるが、本ワサビの種子は貯蔵が難しく、栽培時の発芽率が20%程度まで落ちる場合もあるという。

今回の実験に利用されたナノバブルは、東北大が2年前に開発に成功した酸素ナノバブルで、微量の鉄イオンを含む溶液中で発生させたものだ。なお、特殊な顕微鏡を使うことで50nmよりも小さな泡として安定していることが確認されている。

実験では、これに異なったイオンを加えた上で発芽試験が行われた。すると、K+イオンを入れた条件において高い発芽率が達成された。また、発芽のタイミングで溶液中のK+イオンの99%が種子に取り込まれていることも確認されたという。

  • 各種溶液と発芽率の関係。K+イオン含有ナノバブル水では、他条件に比べて格段に高いワサビの発芽率が確認された。65日目の段階でのK+イオン含有ナノバブル水による発芽率は70%以上。これに対してナノバブル非含有K+イオン水では20%程度だった

    各種溶液と発芽率の関係。K+イオン含有ナノバブル水では、他条件に比べて格段に高いワサビの発芽率が確認された。65日目の段階でのK+イオン含有ナノバブル水による発芽率は70%以上。これに対してナノバブル非含有K+イオン水では20%程度だった(出所:東北大プレスリリースPDF)

またそれと同時に、多量のカルシウム(Ca2+)イオンが種子から排出されていることも観察されたとする。このような現象はほかの条件では確認されないため、ナノバブルが一種の運び役となって種子の内部にイオンを輸送していることが考えられるという。すなわち、ナノバブルとK+イオンによる相乗効果によって発芽が促進されたと考えられるとする。

  • K+イオンの取り込みとCa2+イオンの排出。溶液を7日間ごとに交換しながら、溶液中のイオン濃度の測定が行われた。すると、発芽のタイミングに合わせて大量のK+イオンが種子に取り込まれ、同時にCa2+イオンが種子から排出されたことが判明。ナノバブル非含有水では、このような顕著な効果は確認されなかった

    K+イオンの取り込みとCa2+イオンの排出。溶液を7日間ごとに交換しながら、溶液中のイオン濃度の測定が行われた。すると、発芽のタイミングに合わせて大量のK+イオンが種子に取り込まれ、同時にCa2+イオンが種子から排出されたことが判明。ナノバブル非含有水では、このような顕著な効果は確認されなかった(出所:東北大プレスリリースPDF)

ナノバブルは比較的安価で大量に作成することも可能であり、また長期に安定させることにも成功しているとする。今回の研究では、あらかじめ作成したナノバブル水に、後からK+イオンなどのほかの物質を追加することで、相乗効果が発揮されることが明らかにされた。これにより、ナノバブルの利用形態が大きく広がるとしている。

  • ナノバブルによるK+イオンの取り込みのイメージ。ナノバブルがワサビの種子の発芽率を向上させるメカニズムとして、K+イオンを引き連れて種子の内部に侵入している可能性があるという。そのタイミングに合わせて、種子からはCa2+イオンが排出される。この相乗効果により、種子の発芽率は20%から70%に増加した

    ナノバブルによるK+イオンの取り込みのイメージ。ナノバブルがワサビの種子の発芽率を向上させるメカニズムとして、K+イオンを引き連れて種子の内部に侵入している可能性があるという。そのタイミングに合わせて、種子からはCa2+イオンが排出される。この相乗効果により、種子の発芽率は20%から70%に増加した(出所:東北大プレスリリースPDF)