京都大学(京大)は、シリコン(無機半導体)と有機半導体を組み合わせた有機-無機ハイブリッド太陽電池を、真空プロセスや高温プロセスを用いずに作製し、10%を超す発電効率を得ることに成功したと発表した。
同成果は、同大大学院工学研究科の田辺克明 准教授、同 岡本和也 修士課程学生、同 藤田裕 修士課程学生、同 西ヶ谷紘佑 修士課程学生(研究当時)の研究グループによるもの。詳細は、3月14日付で米国の国際学術誌「PNAS Nexus」にオンライン掲載された。
エネルギー価格の高騰などから、太陽電池を活用した自家消費分の電力を賄うことが注目されているが、シリコン結晶系の太陽電池は、真空プロセスや高温プロセスを活用して製造する必要があるほか、不純物濃度が高い半導体半導体ウェハを使うと、むしろ発電性能が下がるという課題があり、その結果、電極形成時における良導性の金属/半導体界面を形成するために、電極金属の形成後、追加のアニール工程を行うことも低価格化を妨げる要因となっている。
今回の研究では、有機-無機ハイブリッド太陽電池を真空プロセスも高温プロセスも用いずに、かつ電極形成も容易化できる手法の模索を実施。具体的には、n型結晶Si上に、有機半導体であるPEDOT:PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン-ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)を積層した太陽電池では、従来のSi太陽電池のような接合形成のための高温での不純物拡散工程が不要となるため、簡単な作製が可能になることに着目。PEDOT:PSSの塗布によって容易にpn接合を形成する手法で作ることを目指したとする。
手法としては、不純物濃度の高いウェハから切り出し、1cm角よりも大きめのシリコンの表面をフッ酸で処理し、裏面を超純水に浸した後、PEDOT:PSSを塗布。その後、銀インクの塗布によって電極を形成しただけで太陽電池を作ることに成功したという。
作製プロセスの最適化を目指し、各種パラメータの調査を行ったところ、シリコン表側(無機材料と接している側)の酸化時間を長くすると性能が向上すること、ならびに裏側(金属電極側)は酸化膜が悪影響を及ぼすことが確認され、フッ酸で酸化膜を完全に取り除くと性能が向上することを確認したとする。
また、無機半導体と有機半導体の界面の酸化膜の厚みが非常に敏感に発電性能に関わってくることを確認。超純水に浸して酸化させる時間が1~2分であれば発電性能が高まり、その後下がっていく傾向を確認したという。この原因としては、酸化膜がない場合、有機材料側から無機材料側に電子が漏れていく現象が示されたとする。本来、電子はシリコンから電極側に流れることで初めて有効な電力として取り出すことができるわけだが、逆向きに漏れていって無駄になることが分かったという。
今回の研究では、無機半導体と有機半導体の間に、適切な厚みの酸化膜を導入することで、電子が所望な方向だけに流れて、ロスとなる逆側に流れることを防ぐことができることが確認され、酸化膜の導入の重要性が示されたと研究グループでは説明している。
詳細な調査の結果、1分程度の超純水への浸漬時間で1nm程度の厚みの酸化膜が形成されたこと、ならびに10分も浸すと厚みが3~4nmほどとなり、そうなると完全な絶縁体として電気を取り出すことができなくなることも確認したともしており、数nmの厚み制御が重要であることも確認したともしている。
さらに、有機半導体の層の厚みが増すと、本来、シリコンまで届いて発電に寄与する光が有機半導体の層で吸収されてしまい、発電能力が低下すること、ならびに有機半導体の層が薄すぎると、電気抵抗が大きくなり、電極に電子が伝わっていく間に電気的ロスが大きくなってしまい、十分な発電性能が得られないこと、界面の空乏層の厚みが十分に得られないといったことも確認したという。
こうしたパラメータの調査の結果、導き出された最適条件のもと作製された太陽電池の変換効率は10.1%となったとする。
真空プロセスも高温プロセスも電極形成にかかる従来プロセスも不要となるため、研究グループでは太陽光パネル製造コストとして、材料コストとプロセスコストの低減ができると見ており、トータルコストとしては従来のSi結晶系太陽電池と比べ、半分から1/3程度に抑えられる可能性があると試算している。
また、真空プロセスなどを用いたPEDOT:PSS/Si太陽電池では変換効率17%という値が報告されており、研究グループでは、界面の工夫などで光をより効率よく閉じ込めることができるようになるため、そうした工夫を施すことで、開発した太陽電池もさらなる効率向上が期待できるとしているほか、ウェハサイズでの性能検証は行っていないものの、特に性能が低下する要因が思いつかず、むしろエッジでの電気のロスが減るため、大型化も期待できるとしている。
なお、現状では有機材料がひどく酸化すると性能が落ちることが確認されており、現時点では1~2時間で性能が低下するといった課題を解決する必要があるとするほか、大面積化をした場合、今回の研究で行ったような刷毛を使って銀インクを塗布して電極を形成するといった手法が手間となるため、その点の工夫も必要になるとしており、そうした問題を解決しつつ、さらなる性能向上を目指したいとしている。