AMDはドイツのハノーバメッセで3月14日より開催される「embedded world 2023」に合わせる形で、産業機器などに向けた組込機器用CPU「EPYC Embedded 9004シリーズ」を発表した。
EPYC Embeddedといっても9004という型番から判るように、基本Genoaそのものである(Photo01)。
実際TDPもGenoaベースのEPYC 9004とほぼ同じである。異なるのは後述するがNBT/NVDIMM/Dual SPIのサポートと、それとこの手のものでは珍しい7年供給保証がついている事だろうか。ターゲットとなるのは、Network ApplianceやStorage Controller、それとIndustrial向けで言うなら末端のロボットとか製造装置ではなく、中央にある制御系システム向けあたりが主なターゲットになると思われる(Photo02)。
さてそのEPYC Embedded 9004の特徴がこちら(Photo03)。
左半分はGenoaベースのEPYC 9004そのままであり、相違点は右側である。新しい話は、以下の通り。
- NTB(Non-Transparent Bridging):少なくとも複数のコア/ダイの間でLockstep動作をする訳では無いので、厳密な意味での冗長構成にはならないと思うのだが、明示的にアプリケーション側で複数のコアに同じデータを送って処理を並行して行うという使い方をする際に利用できる、コア間の通信I/Fが提供される。NTBはPCI Express(PCIe)でもこの名前で提供されている機能で、これを利用する事で例えばPCI Express Switchに複数のホストを接続する事が出来る。PCIeは原理的にHost=Root Complexが1つ、というトポロジーが要求されるので、Switchに2つ以上のHostというかRoot Complexが接続されると初期化の段階でコケる。ところがそのHostがNTBをサポートしている場合、システムの初期化はどれか1つのHostだけで行い、これが完了して稼働を始めた段階で複数のHostで複数のDeviceをPCIe Switchを経由してアクセスできるというものだ。
EPYC Embedded 9004のNTBが、このPCIeのNTBをさしているのか、これとは別の何かを指しているのかは不明であるが、いずれにせよハードウェア的に何か新機能を搭載しているというよりは、ソフトウェアというかファームウェア的にNTBの機能をどこかに実装している、と言う様に読める。
- NVDIMMのサポート:CXL 1.1 MemoryでもPersistent Memoryのサポートがある、という話はこちらでも触れたとおりだが、まだCXL Memoryのマーケットそのものが立ち上がっていない現状では、すぐにこれを利用するという訳には行かない。そこでNVDIMM(正確に言えばNVDIMM-P)をサポートという事らしいのだが、問題はこちらも現時点で製品が存在しない(もっと言えばまだJEDECでの標準化も完了していない)事だろうか。サポートは良いが、実際にどのデバイスを行ってNVDIMMサポートの検証を行ったのかは興味あるところだ。またどんなOS/APIを利用しているのかも明らかにはされていない。
- Dual SPI:Boot用のSPI Flashを物理的に2つ搭載することで、Secure Bootに対応するといったあたりである。加えてWindows ServerおよびLinuxのDriver Supportが提供されるという話で、これはLinuxのLTS(Long Term Support)版に合わせてそれ用のドライバ(およびWindows Serverのドライバ)を提供するという事と思われる。
今回発表のSKU一覧がこちら(Photo04)。
スペックそのものはEPYC 9004シリーズと同一で、単にEmbedded SKUという形で提供されるだけとなっている。一応性能評価も示されている(Photo05)が、とりあえずSapphire RapidsベースのGen 4 Xeonスケーラブルプロセッサを大幅に上回る性能と効率を実現している、というのが同社の主張だ。
今回の発表に合わせて、SiemensはSIMATIC IPC RS-828A serverをEPYC Embedded 9004ベースでリリースするほかAdvantechも新しいASMB-831というサーバーボードを搭載した4U RackmountのHPC-7485という製品を投入するとしている。ちなみに価格などは明らかにされていない。
なお、EPYC Embedded 9004シリーズはすでにサンプル出荷を開始中。量産出荷は2023年4月を予定している。