大阪公立大学(大阪公大)は3月13日、原子核構造の違いを実験で判別する理論を開発し、それを炭素および酸素原子核に適用したところ、原子核の標準的な見方である「殻構造」よりも、「クラスター構造」の成分が多く含まれていることが明らかになったと発表した。

同成果は、大阪公大大学院 理学研究科の堀内渉准教授、同・板垣直之教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する原子核物理に関する全般を扱う学術誌「Physical Review C」に掲載された。

ヘリウム原子核は2個ずつの陽子と中性子が強く束縛した4核子系であり、しばしば原子核の中で「部分系」を形成することが知られている。原子核がこのようないくつかの部分系から構成される構造は、クラスター構造と呼ばれている。同構造は、原子核の標準的な見方である殻構造では理解することが困難であることとされており、これまではそれぞれの原子核が、実際にはクラスター構造を持つのか、それとも殻構造を持つのか、はっきりと区別する方法がなかったという。

そこで研究チームは今回、クラスター構造と殻構造を1つの枠組みで表現できる「反対称化準クラスター模型」を開発し、ヒトを含む生物が生命活動を行う上で重要な元素である炭素および酸素に適用することにしたとする。

その結果、得られた炭素や酸素の原子核の密度分布は、クラスター構造を仮定した場合と殻構造を仮定した場合では、大きく異なることが判明したという。さらにその違いは、それぞれの原子核に対して、高エネルギーに加速された陽子による散乱実験を行うことで、データとして可視化できることが示されたとする。

  • 殻構造(左)とクラスター構造(中央)。赤玉と青玉はそれぞれ陽子と中性子。(右)高エネルギー陽子による酸素原子核衝突の弾性散乱微分断面積の角度分布。横軸は陽子の散乱角度、縦軸は陽子の散乱されやすさ。C-type、S-typeはそれぞれクラスター構造、殻構造を仮定した場合の理論値。Expt.は既存のデータ

    殻構造(左)とクラスター構造(中央)。赤玉と青玉はそれぞれ陽子と中性子。(右)高エネルギー陽子による酸素原子核衝突の弾性散乱微分断面積の角度分布。横軸は陽子の散乱角度、縦軸は陽子の散乱されやすさ。C-type、S-typeはそれぞれクラスター構造、殻構造を仮定した場合の理論値。Expt.は既存のデータ(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

そして、今回の理論計算と既存の実験データとの詳細な比較から、炭素および酸素の原子核においては、クラスター構造の成分が多く含まれていることが明らかにされた。

研究チームによると、今回の研究手法は簡便かつ強力で、大規模な数値計算を行うことなく原子核構造の「可視化」を行うことが可能だという。今後はネオン、マグネシウム、ケイ素同位体といった、より重い原子核への適用を考え、身の回りにある元素がどこから来たのか、という究極の問いに挑み続けるとしている。

また、恒星内の原子核反応はヘリウム原子核を介した核融合反応が主要であり、クラスター構造を持つ原子核の存在は、恒星内の元素合成過程において極めて重要とする。原子核反応率は反応前後の構造が似ているほど増大することが知られており、これらの原子核がクラスター構造を持つことがわかったことで、より多くの元素が合成されたことが考えられるとした。