東京農工大学(農工大)とソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)は3月10日、CMOSイメージセンサを受信機に用いる光カメラ通信(OCC)について、従来は32色で数十cmの伝送が最高性能だった変調多値数(用いる光色数)を、SSSのセンサカメラキット「Dual Camera Kit」を用いることで512色かつ4mの伝送を実現したことを発表した。

  • 今回の研究で用いられたSSS製「Dual Camera Kit」

    今回の研究で用いられたSSS製「Dual Camera Kit」(出所:SSS Webサイト)

同成果は、農工大大学院 工学研究院 先端情報科学部門の中山悠准教授を中心に、大阪大学、東京理科大学の研究者も参加した共同研究チームによるもので、SSSが2019年より取り組んでいるSensing Solution大学連携プログラム(SSUP)の一環として行われた。詳細は、米・カリフォルニア州サンディエゴにて2023年3月5日から9日まで開催された世界最大の光通信の展示会「OFC2023」にて発表された。

OCCとは、送信機にLEDやディスプレイのような光源を、受信機にカメラを用いた可視光通信のことをいう。一般的には、デジタルデータを3色LEDの色へと符号化・変調して光信号として送出し、カメラで撮影した動画像の中から光を抽出し、そのRGB値などから信号を復調・受信するという仕組みだ。

OCCは原理的に、使用する色数(変調多値数)を多くするほど、高速な情報伝達が可能となる。ただしその一方で、受信側での色の識別が困難になるという課題とトレードオフの関係にあった。また、一般的なカメラを受信機に使用する場合、ヒトの肉眼で綺麗に見える動画像にするための加工(画像処理)が行われるため、光色のズレが発生するため、正確な色の認識が困難になり受信機に正確な情報が伝わらないという問題もあった。

そこで研究チームが今回選択したのが、Dual Camera Kitだ。SSSから貸与された同センサカメラキットは、イメージセンサからのRAWデータ(信号処理をまったく行わない生データ)を取得できるため、補正機能を用いないことで光色のズレを発生させないという特長がある。

今回の研究では、このCMOSイメージセンサから出力されるRAWデータを用いて、取得されたセンサデータをニューラルネットワークにより補正し、さらに誤り訂正符号を用いることで、512色での伝送を試みたという。そして、これまでの実験では32色による数十cm程度の伝送が最高性能だったのに対し、512色での4mエラーレス伝送を実現し、世界記録を大幅に更新することに成功したとしている。

  • (左・上)市販の多くのカメラの場合の送信から受信までの流れ。(左・下)Dual Camera Kitの場合。(右)Dual Camera Kitを用いた変調多値数と距離の関係とこれまでの記録

    (左・上)市販の多くのカメラの場合の送信から受信までの流れ。(左・下)Dual Camera Kitの場合。(右)Dual Camera Kitを用いた変調多値数と距離の関係とこれまでの記録(出所:SSS Webサイト)

研究チームは今回の成果により、OCCのボトルネックだった通信速度の低さを大幅に向上させる可能性が拓けたといえるとする。また今後、サイネージからの発光に対してデジタルデータを重畳させた広告配信サービスや、ドローンなどの移動体のカメラを用いたデバイス間通信などへの展開が見込まれるとしている。さらに、非常に安価なLEDを送信機として用いることから、環境センシングへの活用によるスマート農業やカーボンクレジットの枠組みへの貢献が期待されるともした。