ルネサス エレクトロニクスが、IoT機器の開発の敷居を下げる新たな取り組みとして、「クイックコネクトスタジオ」と銘打たれたクラウドベースのソリューションの提供を開始した。

クイックコネクトスタジオとは、どういったものなので、どのような価値をIoT機器開発の現場にもたらすのか、ルネサスの担当者に話を聞いた。

最大のポイントは誰でも手軽にできる環境構築

実はクイックコネクトには、ハードウェアとソフトウェアが一体となって提供される「クイックコネクトIoT」というソリューションが、今回のクイックコネクトスタジオに先立つ2021年より立ち上がっている。

ただ、このクイックコネクトIoTは、マイコンボードとやりたい機能を持ったPmodペリフェラルモジュールを、物理的につなげ、そこに統合開発環境「e2 studio」経由で、各種機能を自分で選択し、PCから流してやる必要があり、ソフトウェアエンジニアなど、組み込みやIoTの機器開発に不慣れな人には敷居が少々高かった。

  • クイックコネクトIoTとクイックコネクトスタジオの関係性

    クイックコネクトIoTとクイックコネクトスタジオの関係性 (資料提供:ルネサス)

クイックコネクトスタジオでは、ブラウザ経由でクラウド上に用意されたGUIを使って、使いたいマイコンボードとPmodモジュールを選択し、それらはドラッグ・オン・ドロップで自動的に接続インタフェースが選ばれ、その状態で使いたい機能を選択するだけで、それらのモジュールを活用するための実際に動くサンプルプロジェクトが自動的に生成される。

  • クイックコネクトスタジオの概要

    クイックコネクトスタジオの概要 (資料提供:ルネサス)

コンフィグもテンプレートも自動生成され、コンパイルも含めた形でプロジェクトがビルドされ、フラッシュメモリへの書き込み用のバイナリもすべて生成してくれるというものであり、ビルドが終わったものはフルソースの状態でzip形式でダウンロードが可能であり、サンプルコードを探すといった手間もなく、自分でコードを書くことも、コーディングを行うこともなく、手軽にビルド済みのバイナリまたはフルソースコードのプロジェクトとして、e2 studio経由で、実際のマイコンボードとPmodモジュールにインポートすることができ、動作デモを行うことができるようになる。

  • クイックコネクトスタジオのログイン画面

    クイックコネクトスタジオのログイン画面。アクセスするとユーザーIDとパスワードを求められる。マイルネサスのアカウントがあればアクセスが可能。ない人は無料で登録できる。ただし、現在、立ち上げたばかりで同時接続数は30人となっているので、もし人数オーバーとなったら、しばらく待つなどの必要がある

  • ログイン後、実際のUIが表示されるまで少々待つ必要がある

    ログイン後、実際のUIが表示されるまで少々待つ必要がある

  • クイックコネクトスタジオが立ち上がった画面

    クイックコネクトスタジオが立ち上がった画面。まだプロジェクトができてないので、ルネサスのロゴが表示されている

  • クイックコネクトスタジオ
  • クイックコネクトスタジオ
  • クイックコネクトスタジオ
  • クイックコネクトスタジオ
  • 使うボードやモジュールを選んだ後、右側の青文字部分をクリックしていくだけで、e2 studio用のコードが自動で生成されていく。GUI上の基板はマウススクロールでサイズ変更も可能

クイックコネクトスタジオの開発に携わるルネサスのグローバルセールス&マーケティング本部 営業統括部 システムソリューション統括部 主任の岡宮由樹氏「営業でも、客先に持ち込んでエンジニアの力を借りずにものの10分もあればデモを見せることができるようになる」と、その手軽さを説明する。

ちなみに、3月14日から16日にかけて独ニュルンベルクにて開催されるembedded world 2023では、実際にブース内で、温湿度センサをコードを書くこと無く、数分で動作までできるようになるというデモを披露する予定だという。

誰でも手軽にできるIoTソリューションの構築を目指す

現状のクイックコネクトスタジオを端的に表すのであれば、各所に散らばるマイコン上で動作するさまざまな機能のための動作検証済みのライブラリが一か所にまとめられ、そこから必要な機能を選択して、すぐに使える状態にしてダウンロードすることができるクラウドソリューションとでも言えばいいだろう。

ただし、ダウンロードしたコードはe2 studioを使って編集することもできるし、自分で書いたコードを追加することもできる。今回、実際の温湿度モジュールとBluetooth LE(BLE)モジュールを組み合わせて、温湿度をスマートフォンに飛ばすというデモを実際に見せてもらったが、温度表示が華氏であった。もし日本で製品を提供しようと思っているエンジニアは、コードの華氏表示と指示されている部分を摂氏に変更してやれば、対応が完了する。

  • クイックコネクトスタジオ

    クイックコネクトスタジオで生成されたコードを読み込んだe2 studio (提供:ルネサス)

  • クイックコネクトIoTの実ボードとモジュール

    デモを見せてもらったクイックコネクトIoTの実ボードとモジュール。GUI上のデザインが同じものとなっていることがわかる

ここまでノーコードで基本的な動作を実現する開発環境の構築にこだわったのは、「知らなくても動かせる」というテーマを掲げてきたためだという。IoT機器の開発は、ハードウェアとソフトウェアの両側面で開発をする必要があるが、ちょっとしたアイデアを具現化しようと思っても、その両方の知識を持っている必要があった。それではなかなかIoT機器を開発しようというコミュニティのすそ野拡大にはつながらない。ハードの知識がない人でもIoT機器の開発ができるようにするためには、ハードはつないだら動くもの、といった存在になる必要がある。クイックコネクトスタジオは、そうした思想のもとで誕生したソリューションであると言える。

こうした背景から、ルネサスでもクイックコネクトスタジオのこれからについては、多くのユーザーからの声を踏まえて方向性を考えていきたいとしている。対応モジュールやマイコンボードについては、パートナーのものを含め今後、継続して増やして行くことは決まっているが、ソリューションの機能的な部分では、ルネサスとしては将来的にはデバッグ機能やGithub連携によるバージョン管理、ChatGPTによる自動コード生成機能などの搭載を目指すとしているが、具体的には、例えばe2 studioを介さず、クイックコネクトスタジオとボードがダイレクトにつながって動作させることを可能にしてもらいたいというニーズが強いのか、はたまたシミュレーション的な機能までクイックコネクトスタジオに持たせて、クラウド上のボードとモジュールでアプリケーションが動作するようになるまで作りこんでもらいたいのか、実際にデモを見てもらった上で、そういったさまざまなユーザーニーズのフィードバックを受けることで、進化し続けていきたいとする。

そのための方法として、オープンコミュニティ的な発想のもと、多くのユーザーやパートナーが参加してくれるようなコミュニティの醸成を図っていきたいとしているほか、使っていて気付いた不満点や改善点などの声を気軽に開発者側に届ける仕組みなども検討していくとしている。

  • クイックコネクトスタジオの特徴

    クイックコネクトスタジオの特徴 (資料提供:ルネサス)

なお、現在のクイックコネクトスタジオは、マイコンとしてはRA2E1(Arm Cortex-M23)およびRA6M4(Cortex-M33)の2種類、通信モジュールとしてはBLEの「DA14531」とWi-Fiの「DA16200」、温湿度センサ「HS3001」、ガス流量センサ「FS1015/FS3000」が第1弾として対応しており、四半期に1回程度の頻度でボードやモジュールの追加を行っていきたいとしている。また、言語環境は英語のみとなっているが、どこからアクセスしているのかの調査をしていることから、日本からアクセスするユーザーが多ければ、日本語対応も予定よりも早く進められる可能性もあるとしている。

必要な機能のソースコードが自動的に生成され、ハードの知識がなくても、ハードウェア上でその機能を実際に動作させることができるようになるクイックコネクトスタジオの登場で、IoT機器における開発の在り方は本当に変わるのか、開発に関わるユーザー層に変化は生じるのか、コミュニティの活性化も含め、今後のルネサスの取り組みに注目である。