睡眠のうち夢を見る「レム睡眠」に先立って、脳内のグリア細胞が酸性化することをマウスの実験で発見した。また、神経疾患の「てんかん」の発作が生じやすい状態だと、レム睡眠の時にグリア細胞の酸性化がより強まっていることも分かった。東北大学の研究グループが発表した。成果はてんかんの診断や新たな治療法につながる可能性があるという。

レム睡眠の時には、神経細胞の活動による特有の脳波がみられる。脳内で経験を記憶として整理し、夢を見ると考えられている。研究グループはグリア細胞が、脳波では分からない別の形でこの情報処理を支えている可能性があるとみた。

そこでマウスを使った実験で、睡眠や代謝を制御する脳の部位「視床下部」の、レム睡眠の時の変化を調べた。蛍光タンパク質の遺伝子を導入して発現させたマウスの視床下部に光ファイバーを挿し、独自の手法でグリア細胞の一種「アストロサイト」の光信号を解析した。その結果、アストロサイトが酸性化していることが分かった。この酸性化は、レム睡眠の脳波の変化より20秒近く早く起こった。アストロサイトが神経の機能に影響を与えているとみられる。

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    一番上が脳波の周波数のグラフ。一番下が蛍光タンパク質で、低下は酸性化を示す。アストロサイトの酸性化は、レム睡眠の脳波の変化(緑色)より20秒近く早く(黄色)起こっていた(東北大学超回路脳機能分野提供)

また、てんかんの発作を生じやすくした脳のレム睡眠では、アストロサイトが正常な場合より強く酸性化した。アストロサイトを酸性化するとレム睡眠を誘導できた。こうした結果から、脳や心の状態をグリア細胞が制御している可能性があることが分かった。レム睡眠はてんかんの度合いを調べる指標として使える可能性が見いだされた。

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    てんかん発作(Epileptogenesis)では病的な(Pathological)レム睡眠となる。この時、グリア細胞の一種のアストロサイト(Astrocyte)の酸性(Acid)化が強まっている(東北大学超回路脳機能分野提供)

ヒトでも、脳の活動がよく分かる機能的MRI(核磁気共鳴画像装置)技術を活用すれば、アストロサイトに限定はできないが、体を傷つけずに脳内の酸性度の変動などを記録できる。レム睡眠中に計測すれば、てんかんの診断に応用できる可能性がある。アストロサイトの酸性度を安定させられれば、てんかんの新たな治療法に結び付く可能性もあるという。

グリア細胞は神経細胞のような活動電位を出さず、情報処理に関わらないと考えられ、これまで役割は十分解明されてこなかった。

研究グループの東北大学大学院生命科学研究科の松井広教授(脳生理学)は会見で「20秒という、ずっと前からレム睡眠の準備が行われている。グリア細胞の酸性化だけがレム睡眠のきっかけかは分からないものの、それによりパッとレム睡眠に入り、必要十分条件を満たしたのは非常に面白かった。また、てんかんが進んでいる時に酸性化が強い。酸性化でグリア細胞から伝達物質が出ることで、神経細胞の可塑性(かそせい=元に戻りにくくなる性質)が制御されているのではないか。グリア細胞をみれば、脳の他の病気のことも分かるかもしれない」と説明した。

成果は英脳神経科学誌「ブレイン」に3月3日に掲載された。

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    神経細胞(左)とグリア細胞。両者の関係性などを詳しく研究する必要がありそうだ(東北大学超回路脳機能分野提供)

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