STMicroelectronicsの日本法人であるSTマイクロエレクトロニクスは3月9日、記者向け説明会を開き、同社のSTM32マイコン/プロセッサを2023年第1四半期だけで5種類新たにリリースしたことを明らかにした。
今回発表された5製品/シリーズは、いずれもIoT機器の進化の方向性にあるセキュリティへの対応強化や高効率なエッジコンピューティングの実現などを念頭に開発されたもの。そもそもSTM32は、2007年に汎用32ビットマイコンとして販売開始されたもので、現在では主に産業機器、家電、ファクトリオートメーション(FA)、ビル&ホームコントロール、医療機器、セキュリティ&管理カメラをターゲット市場として、2019年からはプロセッサ(MPU)製品も追加し、提供を行ってきた。
こうした産業分野におけるマイコン/MPUに対するニーズとしては、クラウド接続や高効率化、AIによる予知保全、スマート化などといったものが挙げられ、同社でもそうしたニーズを踏まえ、製品の性能だけではなく、開発環境なども含めた形のコスト削減ニーズなどへの対応も含めた付加価値の提案を加速させてきたとする。
STM32の製品ポートフォリオがさらに拡充
STM32マイコン/プロセッサは、搭載するArm Cortexのコアや機能要件により、ハイエンド向けのMPU(Cortex-A7)、ハイパフォーマンスマイコン(Cortex-M3/4/7)、メインストリームマイコン(Cortex-M0/0+/3)、ウルトラローパワーマイコン(Cortex-M0+/3/4/M33)、ワイヤレスマイコン(Cortex-M0+/4)に大きく分けられる。
今回、それぞれのセグメントに新製品が投入された。具体的には、MPUにはエントリモデルとしてCortex-A7(650MHz/1GHz)を1コアのみ搭載した「STM32MP135シリーズ」が、ハイパフォーマンスマイコンとしては、Cortex-M33コアを採用し、既存のSTM32F4シリーズの後継に位置づけられる「STM32H5シリーズ」が、メインストリームとしては、32ビット汎用マイコンを8ビット/16ビットマイコンの価格で提供し、それらの市場からの置き換えを狙うというコンセプトのCortex-M0+採用の「STM32C0シリーズ」が、ウルトラローパワーとしては、すでに1製品がリリース済みのCortex-M33搭載「STM32U5」に512KBおよび4MBのフラッシュ品を追加、そしてワイヤレスマイコンとしてはCortex-M33を採用し、IoTプラットフォームのセキュリティの信頼性評価のための標準である「Security Evaluation Standard for IoT Platforms(SESIP)」のレベル3およびIoT機器向けセキュリティフレームワーク「Platform Security Architecture(PSA)」の認証に対応した「STM32WBAシリーズ」となっている。
STM32MP135シリーズは、主に産業機器の周辺機能などコスト最適化されつつ、ある程度の性能が求められる分野に向けて開発されたMPUで、BGAパッケージながら4層プリント基板を使用することが可能。また、産業グレードの温度範囲に対応しているほか、Qtのグラフィックフレームワークを活用することも可能。このほか、インタフェースとしてギガビットEthernet×2を備えていたり、不正アクセスに対するソフト的は攻撃への耐性に加え、物理的な攻撃への耐性も持たせたという。
STM32H5シリーズは、同社のCortex-M33搭載汎用マイコンとしては最高性能となる250MHz動作を実現したもので、既存のSTM32F4では90nmプロセスを採用して製造していたが、H5シリーズでは40nmにプロセスを進化させ、低消費電力化と高性能化を果たしたという。また、さまざまな用途に適用可能なように、100Mbpsイーサネット、CAN FD、HDMI、USB 2.0 FSといった各種インタフェースに加え、STM32マイコンとして初めてI3Cも搭載したという。
STM32C0シリーズは、Cortex-M0+とすることで、低コストながら32ビット化を可能としたほか、枯れたプロセスである90nmを活用することで8ビットマイコン並みの低価格化を果たしたとしている。同社では32ビット汎用マイコンであるSTM32のほか、8ビットマイコンのSTM8シリーズも有しているが、提供する開発環境を通じて、双方の開発が可能であり、そうした自社のSTM8を利用するユーザーのSTM32への乗り換えを促進していくほか、マイコンメーカーとしては後発組となるため、先行メーカーからの転換支援を長くやってきた経験もあり、そうした他社の8ビットマイコンを活用してきたユーザーへの提案も積極的に行っていきたいとしている。
STM32U5シリーズは、フラッシュメモリサイズが512KB品と4MB品が追加。4MB品は同シリーズのフラッグシップという位置づけとなる。また、(2Dの絵を斜めに見せることで立体的に見せる)2.5Dグラフィックアクセラレータも搭載し、リッチな回転やスケーリングといったUIを構築することも可能。40nmプロセスを採用しているため、SRAM容量も2.5MB(最大)まで拡充されており、A/Dコンバータ(ADC)も14ビット 2MSpsとほかのシリーズと比べても高い性能のものが搭載されているという。
STM32WBAシリーズはBluetooth LE 5.3に対応したセキュアなワイヤレスマイコン。無線性能を向上させており、最大出力は+10dBmとしながらも、バッテリ搭載機器での利用も想定し、STM32U5と共通の低消費電力技術を採用するなどといった低消費電力化も図られているという。
日本市場に攻勢をかける
今回、同社が一気に5シリーズを投入した背景には「この数年、各社ともに半導体の供給に苦労しているが、将来のユーザーの成長に向けて、半導体の進化をおろそかにしてはいけないということで、ハイエンドからローエンドまで一気に投入することを決めた」といった、市場動向を踏まえた判断があったとする。日本市場では、産業機器を中心ターゲット市場としており、そうした産業分野は市場サイクルが長い分、マイコンのリリースタイミングでは不要とされた機能も、産業機器が製品化されるタイミングでは必要になるといったこともあり、今回の製品群は、そうした未来を見据えた上で開発されたものであるとする。
なお、同社は仏クロルならびに伊アグラテの300mmファブの生産能力の増強を継続的に行っており、2022年は約35億ドルを、2023年も約40億ドルを投じる計画。こうした投資により、この2工場の300mmウェハ生産能力は2022年を1とすると、2025年に2倍となる予定。クロル工場は汎用マイコンのマザーファブであり、ここで多くのSTM32マイコンが製造されるほか、製品ラインナップによってはパートナーのファウンドリに90nm品であっても40nm品であっても製造委託を行うといった戦略をとっており、自社工場、ファウンドリ問わず生産される各種半導体デバイスの増加に対応するテスト工程ならびに後工程の生産能力についても継続して強化していくとしている。