核融合科学研究所(核融合研)と米・TAE Technologiesの両者は3月9日、核融合研の大型ヘリカル装置(LHD)において、軽水素(p)とホウ素(B)の安定同位体の11B(陽子5・中性子6)を燃料とした、中性子(放射線)を出さないクリーンな核融合反応「p+11B→3α(高エネルギーヘリウム)」を、磁場で閉じ込めたプラズマ中で実証したことを発表した。
同成果は、核融合研の小川国大准教授、同・大舘暁教授、TAE TechnologiesのR・M・マギー博士、同・田島俊樹博士らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
核融合は数多くの反応があるが、融合させる元素の組み合わせによって投入するエネルギーが異なり、また融合する際に得られるエネルギーも差異が生じる。そのため、核融合反応の中では投入エネルギーが比較的少なく、それでいて得られるエネルギーが多い点、また燃料が入手しやすい点などから、日本を含む多くの核融合研究において、重水素(D)-三重水素(T)反応が採用されている。
しかしD-T反応では、ヘリウム4(4He)とともに放射線である中性子が生成される。そのため、近年になって世界各国のベンチャー企業を中心として、よりクリーンな核融合炉を目指した研究が活発化している。そうしたクリーンな核融合で用いられるのが、pと11Bを用いた中性子が発生しない「先進的核融合燃料」だ。
核融合研は2021年9月1日に、米国の歴史ある核融合スタートアップ企業のTAE Technologiesと、その先進的核融合燃料を用いた共同研究開始の契約書を締結。そして今回、共同研究チームはp-11B反応の実証に取り組むことにしたという。
核融合炉では、磁場で高温のプラズマを閉じ込め、そのプラズマ中で核融合反応を起こしてエネルギーを発生させる。しかし、D-T反応が実際に日本などによって研究が進められているのに対し、p-11B反応では実証されていなかった。そこで今回は、磁場で閉じ込めた高温プラズマに関するさまざまな研究を行っているLHDを用いて、同反応の実証が試みられることとなった。実証できれば、先進的核融合燃料を使った核融合炉の実現に向けて、研究を大きく前進させることが可能となると考えられている。