NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)が大手町(東京都 千代田区)にワークプレイス「OPEN HUB Park」を開設してから、約1年が経過した。同社は3月9日、施設をアップグレードし、事業共創プログラム「OPEN HUB for Smart World」(以下、OPEN HUB)としてデジタルヒューマンやメタバースを取り入れた新たな取り組みを開始すると発表した。
OPEN HUBには社内外から各分野の専門家である「カタリスト」が400人所属している。カタリストは顧客やパートナー企業の共創を促し、それぞれの技術や知見を掛け合わせた新たなビジネスの創出を目指す人材だ。これまでに1300社3000人が同施設を利用し、労働力不足や生産性向上を解決し得るサービスの開発とその社会実装を進めているという。
人間のカタリストから作り上げた「デジタルカタリスト・CONN」
NTT Com、東映、NTT QONOQは、デジタルヒューマン技術を活用したコミュニケーションや接客に関する実証実験をOPEN HUBで開始する。この実証は、東映ツークン研究所が持つアバター生成技術と、NTT人間情報研究所の動きや音声を生成する技術により表現されたふるまいを組み合わせてデジタルカタリスト「CONN(コン)」を生成し、OPEN HUBの接客に活用するものだ。
近年はコンタクトセンターや店舗での接客にAI(Artificial Intelligence:人工知能)を搭載したアバターを活用する事例が増えている。しかし、現実の人間に近いリアルな接客に対する需要は依然として高く、人間に近い動きや自然なコミュニケーションが取れるアバターが求められている。
そこで3社は、特定の人物の動きを学習してその人物らしい動きを自動で生成する「モーション生成AI技術」と、その人物らしい肉声感を持った発話を生成する「音声合成AI技術」、高精細スキャンとモーションキャプチャのデータからフォトリアルなアバターを生成する「デジタルヒューマン技術」を組み合わせて、CONNを生み出した。
CONNの外見は実在するカタリスト9人の顔をLightStageでスキャンしたデータを使用して、CGによりデジタルヒューマンを生成した。特定の人物をAIで再現することによるプライバシーの問題を回避するために、複数人のスキャンデータを用いたという。なお、モーションや音声は特定のカタリストの動きをデータ化して再現している。
OPEN HUB入り口には7つのLEDモニターが設置されている。CONNはこのモニターに登場して、来場者に施設のコンセプトを案内する。CONNがあたかも自ら思考しているかのように表情やふるまい、声のトーンを来場者との対話に合わせて変化させる。
また、施設内に設置された高さ3メートル×横10メートルの大型ディスプレイでは、ICTによって社会課題を解決する「Smart World」の実現に向けた取り組みについて説明する。CONNが来場者に「カスタマーエクスペリエンス、シティ、ヘルスケア、ファクトリー領域の中から、ご覧になりたいコンテンツはございますか?」と問いかけるなど、インタラクティブな案内が特徴的だ。
3社は今後について、デジタルヒューマンの活用方法を探索するとともに、企業の受け付けやアパレル店舗の店員、ショールームのアテンダントなどでの活用を促すとのことだ。
バーチャルなメタバース空間「OPEN HUB Virtual Park」
NTT Comはリアルな空間にとどまらない共創を目指して、バーチャルなメタバース空間「OPEN HUB Virtual Park」(以下、Virtual Park)を開設した。ここでは、場所や時間の制限にとらわれずに、ソリューションの体験やカタリストとの議論が可能になる。Virtual Parkはオンラインメディアの一つのメニューとして提供する。
Virtual Park内は周囲を360度見回せる高精細なCGで作成しており、大手町にあるOPEN HUBの設備を踏襲しながらも、雲や大樹があるなどどこか非現実的な世界を思わせるデザインだ。バーチャル空間内ではOPEN HUBに展示されているソリューションを体験可能なほか、モニターの付いたロボットを介してカタリストとコミュニケーションも取れる。
同社はVirtual Parkについて、エンタープライズ向けにメタバースサービスの実証環境として提供するという。Virtual Parkには400人のカタリストの情報も掲示しているため、自社の課題解決に適するカタリストを選ぶこともできる。今後は、バーチャル空間のみに閉じるのではなく、リアルな施設と組み合わせながら顧客との共創を促すとしている。
また、Virtual Parkの延長として、NTT QONOQが手掛ける「NTT XR Space WEB」(DOOR)を用いたバーチャル空間専用のホワイトキューブも提供する。こちらはチーム内での議論専用の空間として活用できる。空間内は四方を無機質な白い壁に囲まれているが、壁に議論に適したフレームワークなど掲出することで対話を促す。議論の進行に連れて、4段階ほどの空間を遷移する。