東京理科大学(理科大)は3月8日、室温・大気圧下でプラスチックフィルム上に「多層カーボンナノチューブ」(MWNT)配線を作製する、従来よりも簡便な方法の開発に成功したことを発表した。
また、作製時のレーザー照射条件を変化させることで、抵抗値や線幅が異なるMWNT配線を選択的に作製できると明らかにしたことも併せて発表された。
同成果は、理科大 先進工学部 電子システム工学科の生野孝准教授、同・小松裕明大学院生、同・杉田洋介大学院生、同・松浪隆寛学部生らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
さまざまな特長を有し、次世代のナノカーボン材料として期待されるカーボンナノチューブ(CNT)。その単層CNTを複数重ねた構造を持つのがMWNTだ。しかしその製造には、専用の設備を使用し、手間のかかる転写工程を繰り返し行う必要があることなど、いくつも課題があった。
また、基板上にCNTを有するデバイスの主な作製方法に、基板材料に依存しない「レーザー誘起順方向転写法」や、レーザー条件を変えることで基板上の配線の抵抗を制御できる「熱融合法」などがある。しかし、前者は配線抵抗を制御することが困難なことや高価なパルスレーザーを必要とすること、後者はあらかじめ大量のCNTを調製する必要があることや高出力のレーザーを必要とすることなど、作製方法に関しても課題が存在していた。
そこで研究チームは今回、より簡便な方法で直接プラスチック基板上にMWNT配線を製造するため、さまざまな抵抗値を持つMWNT配線をプラスチック基板上に作製する手法の開発に取り組むことにしたという。
そして、目的とするMWNT配線を作製することが可能な、次の5工程を行う手法が開発された。
- ホットプレート上に設置したポリプロピレン(PP)基板を70℃に加熱
- 室温・大気圧下でMWNT分散液を噴霧して同基板表面をコーティング
- レーザーを照射
- 15分間の超音波処理
- 窒素ガスを吹きつけて表面洗浄
上記の手法により作製されたMWNT配線の抵抗は、レーザー条件に応じて0.789kΩ/cm~114kΩ/cmの範囲で制御可能であり、線幅はレーザー走査速度ではなくレーザー強度に依存するという。