農業系ベンチャー企業のファームシップ(東京都中央区)とパイマテリアルデザイン(茨城県つくば市)が、人工知能(AI)技術を用いて植物工場内で育成するホウレンソウの苗の良否判断を実現し、植物工場でのホウレンソウ収穫量を17%増やすことに成功したと、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が発表した。

このファームシップなどによる技術開発は、NEDOのロボット・AI部が実施中の「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」事業の1つとして実施されたものだ。ファームシップの植物工場内で、ホウレンソウの種をまき、発芽していくらか成長した時点で、その発芽し成長しつつある苗の育成状態をAIによる画像判定によって、本格的に移植して育てるかどうかを判別する技術開発にめどをつけた。移植して育てると判定された苗は、移植用のロボットアームの先のハンドによって、本格的に育成するように移植され、育てられる仕組みだ(図1)。ホウレンソウの苗の画像から、苗の高さ、幅、重さ(質量)を判定し、苗の良さを判定して、その後の育成具合いなどを判定している。

  • 今回開発された開発したAI技術のプロセス概念

    今回開発された開発したAI技術のプロセス概念 (出所:NEDO)

植物工場内で育成するホウレンソウの苗の良否判定によって、高品質なホウレンソウを育てることが可能になり、結果的に安価に育成・収穫し、市場に出荷できる仕組みだ。

発芽し成長しつつあるホウレンソウの苗の育成状態をその質量としてデータ保存し、かつ育ったホウレンソウの質量もデータとして保存し、ホウレンソウの収穫量などの生産性データとして蓄積し、植物工場の生産性を高めていく計画だ。ホウレンソウの生産性を質量予測・育成制御予測のAI技術として蓄積し、生産性を高めていく。この結果、高精度なホウレンソウなどの育成・需要調整システムに仕上げる予定だ。「以前は移植後ホウレンソウの正常苗率は54%だったが、今回の技術開発によって80%まで向上できた」という。

農業系ベンチャー企業のファームシップは、これまでにもAI技術を用いた植物工場向けの技術開発を進めてきた。2019年には、豊橋技術科学大学と共同で、AI技術を用いた野菜の市場価格予測技術を開発し、東京都の大田市場でのレタスの市場価格(週単位)を公表し続けている。現在は、大田市場のイチゴやトマトなどの5品種の市場価格予測を公表し続けている。

また、ファームシップはNEDOロボット・AI部が実施中の「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」事業の中で、非接触・非破壊でレタスの質量を推定するアルゴリズムを実用化している(参考文献)。これによって、日本国内で成長し続けている野菜工場事業を安定させることを目指している(ファームシップは、自社でも植物工場を運営したり、他社の植物工場の操業開始時と運営時の支援などを事業としている)。

参考:NEDO、AIでレタスの質量を推定する実証試験に成功 - 植物工場の生産性向上に期待