沖縄科学技術大学院大学(OIST)は3月3日、副作用の心配がなく、多発性硬化症や関節リウマチといった、さまざまな自己免疫疾患の治療に利用できる可能性がある化学物質「ホスホエノールピルビン酸」(PEP)を発見したことを発表した。

同成果は、OIST 免疫シグナルユニットのホァン・ツォンイェン大学院生、同・石川裕規准教授らの研究チームによるもの。詳細は、ライフサイエンス全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Cell Reports」に掲載された。

免疫系は通常、体内に侵入してきた病原体を攻撃したり、感染症に対処したりする。しかし自己免疫疾患では、その免疫系が、本来は守るべき健康な細胞や組織を攻撃してしまう。同疾患はさまざまな形で現れ、関節リウマチによるひどい関節痛や、多発性硬化症による脳や脊髄の機能麻痺など、深刻な症状を引き起こす例もある。

そうした中で研究チームは今回、免疫細胞の大半を占めるT細胞集団の一種である「Tヘルパー17細胞」(Th17細胞)に注目したという。同細胞はT細胞が成熟することで誕生し、侵入してくる病原体と闘うための進化を遂げてきたと考えられており、腸内に多く存在する。しかし、時に何らかの要因で過剰に活性化してしまい、正常で健康な細胞や組織を誤って病原体と認識してしまい、守るべき対象を攻撃してしまう場合がある。

これまでの自己免疫疾患の治療法に関する開発研究の多くで注目されてきたのが、体内のさまざまな細胞内のグルコース(ブドウ糖)を分解してエネルギーに変換し、細胞の代謝を助けるプロセスの「解糖」だ。このプロセスは、Th17細胞を含むさまざまな細胞が増殖するために不可欠なものである。今回の研究では、この解糖が過剰に行われると、Th17細胞の活性が抑えられることが判明した。そこで研究チームは、解糖の過程で生成される分子がTh17細胞を抑制するという仮説を立て、PEPに着目することにしたという。