KDDIは3月7日、誰もがWeb3の利点を享受してクリエイターになれることを目指す新たなWeb3・メタバースサービス「αU(アルファユー)」を開始することを発表し、東京都内で記者会見を開いた。

  • αU会見会場の様子

    αU会見会場の様子

KDDIの新たなWeb3サービス「αU」

同社は2022年5月に、2030年に向けたありたい姿を「つなぐチカラを進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる」に定めた。この姿を実現するために注力しているのが、「KDDI Digital Twin for All」だ。デジタルツインとは、普段われわれが過ごしている現実空間からデジタルデータを収集し、まるでツイン(双子)のようにサイバー空間に表現する技術である。

近年の生活者、特にZ世代(10代~20代前半)に着目すると、友人同士でリアルタイムに位置情報を共有するサービスの利用や、離れた場所に住みながら常に音声通話アプリを介してコミュニケーションを取り続ける「リモート同棲」など、リアルとデジタルを隔てる境目は徐々に無くなりつつある様子がうかがえる。

会見に登場したKDDI代表取締役社長の髙橋誠氏は「リアルの世界とバーチャルの世界という線引きは、もう無いのかもしれない。これが今後のコンシューマーサービスを作る際の基本的な考えとなるはず」と説明した。

  • KDDI 代表取締役社長 髙橋誠氏

    KDDI 代表取締役社長 髙橋誠氏

そうした中で提供を開始するαUは、メタバース空間だけでなくライブ配信やバーチャルショッピングなど、Web3に基づくサービスを展開する。コンセプトは「もう、ひとつの世界」だ。音楽ライブやアート鑑賞、友人との会話をいつでもどこにいても楽しめるサービスを手掛けるとしている。

  • 3月7日からαUの提供を開始する

    3月7日からαUの提供を開始する

Google Cloudらとのコラボレーションで世界を舞台に

KDDI社長の髙橋誠氏は「オープンなメタバースを実現するためには、ボーダレスな世界を構築する必要がある。そのためには、当社が1社で取り組むのではなくグローバルでパートナーが欠かせない」とも述べている。αUの提供に際して、KDDIは以下の企業らと提携を結んだ。

Google Cloudとの共創

KDDIとグーグル・クラウド・ジャパンは、クラウドレンダリング技術の「Immersive Stream for XR」を活用したビジネス共創を目指す。Google Cloudが持つコンピューティングリソースや、YouTubeなどのコンテンツ配信プラットフォームを利用して、αUでの新たなXR(Extended Reality:ARやVRの総称)体験を作るという。

Google Cloudが提供するImmersive Stream for XRはデバイスのスペックに依存せず高精細なARやVRを表現可能だ。加えて、バーチャルアバターの自然な会話を支える機械学習プラットフォームや、遅延を最小限に抑えながら没入感のある体験を支える「Google Distributed Cloud」などでαUのXR体験を支える。

Google CloudのImmersive Stream,Vice Presidentを務めるANKUR JAIN氏は「KDDIとの最新のコラボレーションに携わることができて光栄だ。αUのサービス開発を通じて最新のクラウド技術とネットワーク技術を活用し、ユニークでシンプルかつ楽しい体験を提供していく」と動画でコメントを寄せた。

  • Google Cloud Immersive Stream,Vice President ANKUR JAIN氏

    Google Cloud Immersive Stream,Vice President ANKUR JAIN氏

WPPとの共創

KDDIはマーケティング・コミュニケーションズグループであるWPPと、日本から世界に向けたコンテンツの展開で手を結ぶ。両社はWeb3のクリエイターエコノミーにおけるグローバルビジネスモデルの構築を目的とした戦略的パートナーシップを締結している。WPPが持つデジタルクリエイティブ開発力や国際的なネットワークをαUに活用する方針だ。

将来的には、ChatGPTのような対話AIを搭載した、多言語で自由にコミュニケーションが取れるバーチャルアバターによる海外展開なども見据えているという。両社は日本発の世界に通用するメタバース・Web3コンテンツの構築に寄与するとしている。

WPPのCEOであるMARK READ氏は「今回の両社のパートナーシップは、Web3やメタバース、NFTなどのデジタル領域でグローバルな成長を目指すものだ。データやテクノロジーを活用した当社のクリエイティビティは、日本の次世代カルチャーを世界に発信する一助になるだろう」と動画でコメントした。

  • WPP CEO MARK READ氏

    WPP CEO MARK READ氏

ANNIN との共創

KDDI、アソビシステムホールディングス、Activ8らの3社は、リアルとバーチャルで活躍する次世代型アーティストの創出とメタバース関連コンテンツの開発、およびそれらのグローバル展開を目的とした戦略的提携に向けて、基本合意書を締結した。

3社は今後について、ANNINを通じて合意の目的実現に向けた検討を進めるとのことだ。ANNINは、きゃりーぱみゅぱみゅをはじめとするアーティストのプロデュースに強みを持つアソビシステムと、バーチャルタレント「Kizuna AI(キズナアイ)」を生み出したActiv8による合弁会社。

αUで提供する具体的な5つのサービス

αUでは友人との会話を楽しめるメタバース空間「αU metaverse」、360度自由視点の音楽ライブを楽しめる「αU live」、NFTなどのデジタルアート作品を購入できる「αU market」、暗号資産を管理できる「αU wallet」、フォトリアルなバーチャル店舗でショッピング体験ができる「αU place」の5サービスを展開する。なお、今後も順次、αUを冠するWeb3サービスを展開する予定だ。以下に各サービスの詳細を紹介する。

  • αUとして展開する5サービス

    αUとして展開する5サービス

αU metaverse

αU metaverseは音楽ライブや友人との会話が可能なメタバース空間であり、まさにαUの入り口とも呼ぶべきサービス。音声でのコミュニケーションが基本であり、チャットなどテキストメッセージでは得られなにくい共感や交流を生み出す。メタバース空間にはバーや居酒屋、カフェも設置しているため、バーチャル空間で飲み会のようなコミュニケーションも図れるという。

また、αU metaverseでは有名人によるトークライブやクリエイターによる展覧会も可能だ。メタバースならではのアバターを介した会話など、珍しい体験にもつなげる狙いがあるそうだ。カラオケなどにも対応するとしている。

さらに、αU metaverse内では誰もが自分の部屋(マイルーム)を所持できる特徴がある。マイルームは家具の模様替えをするなど自分らしさを表現できる空間であり、今後は家具の制作・販売やマイルームを舞台にしたトークライブなどの機能も追加するという。これまでのようにイベントなどに合わせてアクセスするメタバースではなく、日常を過ごせるメタバースを目指したそうだ。

  • αU metaverse

    αU metaverse

αU live

αU liveでは、360度自由視点で音楽ライブを楽しめる。ライブ中の発声やジャンプといったアクションも可能だ。アーティストに対して好きな角度や距離からパフォーマンスを楽しめる。同サービスはクラウド上で映像を処理しているため、スマートフォンでも高精細な映像を閲覧可能とのことだ。正式なサービス開始は今夏を予定している。

同社はαU liveについて「映画、テレビ、YouTubeに次ぐ新たなステージ」としている。映画スターやYouTuberのように、αU liveという新たなプラットフォーム上で活躍するクリエイターおよびアーティストの活動を積極的に支援する方針。

  • αU live

    αU live

αU market

αU marketはNFTをはじめとするデジタルアート作品を購入できるマーケットプレイス。著名なファッションデザイナーやNFTアーティストの作品などが売買できるとのこと。クレジットカード決済やauかんたん決済に対応し、NFTを購入可能。

他のマーケットプレイスと互換性があるNFTネットワークであるPolygonブロックチェーンを採用しているため、購入した作品を他人に売買することもできる。さらに、リアル空間の店舗で特典が受けられるNFT(デジタル会員証)なども取り扱う。

  • αU market

    αU market

αU wallet

αU walletはαU marketで購入したNFTや、NFTの売買に必要な暗号資産を管理できるウォレット。他のPolygonブロックチェーンに対応するマーケットプレイスで購入したNFTも保有可能だ。将来的には、複数のメタバース間を行き来する際のIDとしての利用も見込んでいるようだ。

  • αU wallet

    αU wallet

αU place

αU placeはバーチャル空間内でもリアルな接客による買い物を体験できるサービス。店舗を見渡しながら友人や家族と好みの商品を探すリアル店舗の購買体験と、いつでも買い物ができるEC(Electronic Commerce)の良さを組み合わせたサービス設計だそうだ。

バーチャル空間にフォトリアルな店舗や街並みを再現しており、ユーザーはリアル空間での買い物と同じように、バーチャル空間を散策しながら店舗を見つけて入店できる。店舗スタッフからビデオ通話によって商品説明やアドバイスを受けられるという。

事業者が出店する際には、実際の外観デザインと店内の展示をスマートフォンで撮影するのみでバーチャル空間に再現可能とのことだ。今後は、リアル店舗でスマートフォンをかざした場合にARで商品説明を提供するなど、リアルとバーチャルを連動したサービスも実装する。αU placeは今夏より提供予定。

  • αU place

    αU place