東京都立大学(都立大)、産業技術総合研究所(産総研)、東北大学、名古屋大学(名大)、筑波大学、大阪大学(阪大)の7者は3月3日、直径数~数十nmほどの「遷移金属モノカルコゲナイド」(TMC)のナノファイバーの隙間に、金属原子を効率的に挿入する技術を開発したことを発表した。

同成果は、都立大 理学研究科 物理学専攻の夏井隆佑大学院生、同・清水宏大学院生、同・中西勇介助教、同・島村燿人学部生、同・遠藤尚彦研究員、同・宮田耕充准教授、産総研 材料・化学領域 極限機能材料研究部門の劉崢上級主任研究員、同・ナノ材料研究部門の林永昌主任研究員、東北大 学際科学フロンティア研究所のNguyen Tuan Hung助教(同・大学大学院 理学研究科 物理学専攻兼務)、東北大大学院 理学研究科 物理学専攻の齋藤理一郎教授、名大 工学研究科 応用物理学専攻の菊地伊織大学院生、同・蒲江助教、同・竹延大志教授、筑波大 数理物理系の岡田晋教授、阪大 産業科学研究所の末永和知教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するナノサイエンスとナノテクノロジーに関する全般を扱う学術誌「ACS Nano」に掲載された。

ナノスケールにおいて均一な細線状材料の実現およびその結晶構造と物性の制御法が求められており、その候補としてTMCが注目されている。TMC細線を多数集めて束にした結晶の隙間に、アルカリ金属などが挿入された構造は「三元系TMC」と呼ばれ、挿入する原子の種類によっては超伝導を示すことが知られていた。しかし、固体原料を高温で焼結する従来の手法では、同TMCを用いた長尺なファイバーやそのネットワーク薄膜、そしてナノサイズの厚みを持つ極薄なファイバーなどを合成することは困難だったという。そのため、新たな同TMCナノファイバーの合成法の開発が望まれていた。

そうした中、近年になって、二元系TMCナノファイバーの直接合成技術が開発された。研究チームの中西助教と宮田准教授らも、2020年に化学気相成長法を利用したタングステン(W)とテルル(Te)からなる「W6Te6」や、モリブデン(Mo)とTeからなる「Mo6Te6」などのTMCナノファイバーの大面積合成法を開発している。

二元系TMCが束状になった結晶では、個々の細線間に数オングストローム程度の空隙が存在しており、そこに金属原子を挿入できれば、三元系TMCの作製が可能なことが理論的に予想されていた。しかしその実証はされていなかったため、研究チームは今回、二元系TMCナノファイバーを出発原料に、金属原子の挿入による三元系TMCナノファイバーの実現を試みることにしたという。