日本の新型基幹ロケット「H3」がいよいよ打ち上げられる。という書き出しで始まった前回の現地レポートは、結局、第1段エンジン「LE-9」の燃焼開始後に発生したトラブルによって、打ち上げを見届けられないまま、種子島から撤退することになってしまった。ただ、この問題も無事解決。今度こそ、本当に「いよいよ」である。
今回は、3月3日に新たな打ち上げ日が発表。6日ということだったので、筆者は急遽、荷物をまとめて4日に家を出たのだが、鹿児島空港に付いたところで、7日に延期するというお知らせが届いてしまった。
当然ながら、打ち上げのイベントは全て1日ずつスライド。となると、5日の予定が無くなってしまったのだが、ちょうど、この日は「種子島ロケットコンテスト」の開催日である。
先日の記者説明会において、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の岡田匡史プロジェクトマネージャは、H3ロケットの打ち上げと同じタイミングで開催されるこのコンテストに言及。参加している学生に対し、「君たちはすごいなと。私が学生のころには、そういうことを自分でやろうと思ったことはなかった。これからの宇宙開発を担ってくれる人たちに、ぜひ本物のロケットの打ち上げを見せてあげたい」とメッセージを送っていた。
岡田プロマネが楽しそうに答えていたのが印象に残っていたため、どんなイベントなのか気になった筆者。会場である種子島宇宙センターへ行き、短時間ではあるが、取材することができたので、今回の現地レポートの1本目は、種子島ロケットコンテストの簡単な紹介から始めてみたい。
元々取材予定ではなかったため、予備知識は全く無かったのだが、開催は今回で19回目とのこと。ロケットコンテストという名称ながら、ロケット部門のほかにCanSat部門もあり、なかなか賑やかなイベントのようだ。競技の出場者のほとんどは学生で、今回は400人を超える参加があったという(社会人の参加も可能)。
参考:種子島ロケットコンテスト
このイベントの大きな特徴は、なんと言っても、ロケットの本場、種子島宇宙センターで開催されることだろう。競技は竹崎グラウンドの一帯で行われるのだが、近くには宇宙科学技術館や竹崎展望台などもあるので、そちらも歩いて見に行くことができる。宇宙好きであれば、1日いても楽しめそうだ。
両部門はそれぞれ、複数の種目で構成。ロケット部門には、滞空時間と着陸精度を競う「滞空・定点回収」、有翼ペイロードの滞空時間を競う「ペイロード有翼滞空」、高度を競う「高度」、自由ミッションの「インテリジェントロケット」がある。小さなモデルロケットではあるが、種子島宇宙センターで打ち上げられるのは面白い。
一方、CanSat部門は、打ち上げるのではなく、上から落とす競技である。機体は、直径154mm・高さ300mmの円筒に収める必要があり(重量は1050g以内)、これを、クレーン車を使って、高さ30mから投下する。パラシュートがあるといっても、着地の衝撃は結構あるので、まずはこの衝撃に耐えられるように作らないと、何もできない。
筆者が見たのは10チームくらいなのだが、やはり着地で壊れたり、パラシュートが絡まって動けなくなったり、スタートで躓く機体が多かった。面白そうだが、なかなか一筋縄ではいかない競技である。
種目は3つ。「自動制御カムバック」と「遠隔制御カムバック」は、着地後に走行を開始し、目標地点に接近させるというもの。従来は自動制御のみだったが、今年から遠隔制御の種目も追加された。それとは別に、アイデアを競う自由ミッションの「オリジナルミッション」もある。
面白かったのは、同志社大学のチームだ。このチームは、規定サイズ内に2台のローバーを搭載。どちらか1台でも成功すれば良いので、信頼性を高める戦略としては非常に合理的だ。そのために、基板を自作するなどして、小型化を実現。8×8画素のToFにより、目標地点のカラーコーンを検出する作戦だった。
ところで会場には、仕事明けのJAXA岡田プロマネが立ち寄り、早速、学生たちから声をかけられていた。本当に、H3ロケットの打ち上げがこのタイミングになったから話ができたわけで、学生たちにとっては、とても良い経験になったのではないだろうか。今後の活躍を期待したいと思う。