NECは3月3日、物流倉庫・工場などでの作業内容やレイアウトの頻繁な変更など、変化に柔軟に対応できるロボット制御AIを開発したと発表した。
同AIの制御技術には、機械学習の分野で注目される「世界モデル」がコア技術として利用されており、AIがロボットの動作によって起こる結果を予測することができる。これにより、過去に試したことのない作業条件であっても、予測に基づいて状況に即した常識的な判断を行い、臨機応変にロボットを動かすことが可能になるという。
同日には記者説明会が開かれ、同AIをはじめ、物流業界の中でも倉庫領域のDX(デジタルトランスフォーメーション)に活用できる技術が紹介された。
AIが自律的に学習し、未学習のサイズ・形状の箱をハンドリング
説明会の冒頭では、NEC データサイエンス研究所 所長の酒井淳嗣氏が、人手不足が課題となっている半面、大半の作業が人手によって行われている倉庫のDXにおける課題を説明した。
「倉庫運営の課題は『変化への対応』にあることがわかってきた。物量増に対応するためのレイアウト変更や多種多様な荷姿の登場による作業手順の変化があり、安全管理のために管理者が把握すべきことも変わっていく。人手に頼った倉庫運営が限界に近づく中で、今後は変化に対応できる現場作業ロボットと、映像を活用した遠隔での集中管理が必要だと考える」と酒井氏は述べた。
現状、倉庫で利用できるロボットや映像による監視ソリューションはさまざまある。だが、NECが物流業界などの顧客にヒアリングし、現場を調査したところ、ロボットが決まった動作しかできなかったり、環境変化に適応させるのに時間やコストがかかったり、ネットワークが不安定なために想定通りに映像監視ができなかったりと、現場での課題が見えてきたという。
そこで同社は、倉庫DXに活用できる技術を選定し、現在、実用化に向けた検証を進めている。
そのうちの1つが、世界モデルを利用したロボット制御AIだ。同AIは今回、物品をある箱から他の箱に入れ替えて整列させたり、棚から物品を出し入れしたりするハンドリング作業に適用すべく開発された。
同AIによって制御されたハンドラーロボットは、過去に試したことのない作業条件でも失敗の少ない最適な動作を自律生成し、実行することが可能だ。これにより、学習したものと異なるサイズ・形状で、不規則に置かれた物品に対しても、的確につかんで所定の位置と向きに正しく置くことができるようになる。
NECは今後、物流倉庫や工場などのロボット作業で同技術の検証を進め、2024年度中の実用化を目指す。
ハンドリング作業をロボットで行うためには、物品の種類や置き方、箱の中の状態などの作業条件に応じて、ロボットが落とさないように物品をつかんで指定された場所に置く、といった動き(タスク)を生成する必要がある。従来行われてきたロボット制御則を学習する機械学習手法では、学習した作業条件パターンに依存して動作候補が生成されるため、あらゆるパターンの状況や行動のデータを網羅的にプログラムする必要があり、ロボットの自律制御における大きな課題となっていた。
NECによれば、多様なサイズの直方体を所定の位置や向きに置く作業を学習する場合には、数万パターン以上の事前学習が必要となり、その学習に数カ月以上を要するという。同AIで検証したところ、同様の作業に対応可能な動作の生成のために、数百パターン程度の学習で対応することができ、事前学習の時間を数日に短縮することも可能だったという。
倉庫DX向けにデジタルツインのソリューションを開発・提供
説明会では、2022年1月に発表された「ロボットによる倉庫内での搬送作業効率を、高い安全性を維持しながら従来比で2倍に向上させる制御技術」もデモ映像とともに紹介された。
倉庫内で稼働する搬送ロボットは、通常、いつでも停止できるように低速または定速で動き、人や障害物を検知すると直前で一時停止してリルート(ルート変更)を行う。
同技術を適用させた搬送ロボットは、周囲の安全性リスクに応じて速度を上げて走行したり、人や障害物を検知しても搬送を止めずに動的にルート変更をしたりすることができる。
NECは同技術を、協調搬送ロボットサービスに機能追加し、2023年~2024年に実用化する予定だ。
このほか、2023年3月2日に発表された「アプリケーションアウェアICT制御技術」のデモも展示されていた。
同技術は、2022年11月の「NEC Innovation Day」で先行公開されていた技術となり、大量の映像データの中から分析すべき重要な領域を自動的に抽出し、映像の重要度とともに、ネットワークやコンピューティングの負荷状況に応じて作業現場の端末(エッジデバイス)とクラウドに分析処理を動的に振り分けることができる。
例えば、倉庫内を多数のカメラで監視している際、それぞれのカメラには管理者が注目すべき重要度の高い映像とそうでない映像がある。多数のカメラでリアルタイムにモニタリング・指示するためには、重要度の高い映像がクリアに写っていなければならないが、すべての映像を同時に処理していると、コンピューティングリソースやネットワークの帯域が不足した際に、重要な映像が乱れるリスクがある。
同技術は、そうした映像によるリアルタイム監視を安定化するために開発された。今後は物流倉庫や建設現場などで同技術の実証を行い、2023年度中の実用化を目指す。
説明会で紹介された3つの技術を皮切りに、今後、NECは倉庫DX向けにデジタルツイン関連の技術やソリューションを開発していく方針だ。
すでに、世界モデルを利用したロボット制御AIでは、倉庫の作業内容を3D空間で再現し、複数回シミュレーションを行ってから実世界のロボットにハンドリングモデルを実装できるような開発を進めている。
将来的には、大量のセンサデータなどを基にしてサイバー空間に倉庫のデジタルツインを作り、デジタルツイン上でロボットの挙動をシミュレーションし、その結果を実世界のロボットに反映するようなソリューションの提供もあり得るという。