最近、先端半導体を巡って米中間で火花が散っている。米バイデン政権は昨年10月、半導体の先端技術や製造装置などで中国との取引を禁止する対中輸出規制を強化した。これによって、14nmプロセス以下の先進的な半導体技術などが規制対象として追加された。しかし、依然として中国への流出を効果がある形で防止できないと判断したバイデン政権は今年1月、先端半導体に必要な製造装置などで高いシェアを持つ日本とオランダに対し、同輸出規制に同調するよう要請した。1月に岸田首相とオランダのルッテ首相がそれぞれホワイトハウスを訪れた際、要請したとみられる。
半導体製造装置は日本経済にとって1つの武器であり、その多くが中国に輸出されてきた。半導体製造装置大手の東京エレクトロン(TEL)は2月、昨年10月~12月期の中国向けの製造装置の売上高が前四半期比39%と大幅に減少(1027億円)したことを明らかにした。
昨年10月のバイデン政権による対中輸出規制により、中国に米国製の製造装置が届かなくなり、中国国内での半導体生産が一部停止し、製造過程で一緒に使用されるTELの装置への需要が減ったことが影響したとみられる。TELの総売上高の3割近くが中国とされるが、今後日本も米国と足並みを揃えることになれば、同社の売り上げにさらなる影響が出てくることが予想される(日本は米国ほど厳しい規制を敷くわけではないので、影響はそれほどないとの見方もある)。
一方、米国の要請によって日中間の自由貿易が影響を受けるとなれば、利害関係にある企業の間では“米国からの一種の貿易規制だ”との疑念が浮上するかも知れない。しかし、外見上は貿易規制に見えるこの問題の本質が安全保障にあることを認識する必要がある。なぜ、バイデン政権が輸出規制を強化したかと言えば、それが中国によって軍事転用される可能性があるのだ。
昨年秋に異例の3期目をスタートさせた習政権は軍の近代化を最優先事項の1つに位置付け、AI兵器や自律型誘導ミサイルなどいわゆるハイテク兵器の開発・生産を強化しようとしている。そして、そのハイテク兵器の心臓部分を司るのが先端半導体、次世代半導体なのである。今日、中国は自らの力でそれらを製造できる環境にはないことから、どうしてもそれに関する技術や材料を獲得し、国内での開発・大量生産にこぎ着けたい狙いがある。
しかし、仮にそうなれば、日本の安全保障に深刻な影響が出てくる。今日でも中国による海洋覇権が進み、尖閣諸島、そして台湾情勢を巡って緊張が高まっている。中国人民解放軍がハイテク兵器を駆使することになれば、米軍でさえも十分に抑止できなくなるだろう。台湾有事において、中国は米軍の対応能力を最も意識しており、中国軍のハイテク化によって台湾侵攻へのハードルを中国政府が自ら下げることが懸念される。今回、日本が米国の要請に応じた背景には、中長期な安全保障への強い懸念があったのだ。そうなれば、国防・安全保障を実質米国に依存している日本としては、バイデン政権の要請に対してNoの回答は提示できなくなる。