山口大学は3月1日、90億光年先まで広がる約600個の銀河データから、ブラックホールとダークエネルギーを結びつける観測的証拠を発見したと発表した。
同成果は、山口大大学院 創成科学研究科(理学系学域) 物理学分野の坂井伸之教授ら9か国15研究機関の約20名の研究者が参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
ブラックホールは、光すら脱出できない強大な重力を持つ天体として、広く一般にも知られている。太陽質量の8倍以上の大質量星のうち、太陽質量の20倍以上の星が超新星爆発をすると誕生する可能性がある(太陽質量の30倍ぐらいまでは、超新星爆発後に中性子星が残される場合もある)。また、こうした恒星級ブラックホールだけでなく、宇宙に存在する大半の銀河の中心には、天の川銀河中心の「いて座A*(エースター)」のように、太陽質量の10万倍から数十億倍という大質量ブラックホールも存在していると考えられている。
また宇宙膨張は、宇宙が138億年前に誕生して以来、常に空間的に拡張し続けているという、宇宙全体に及ぶ現象のことをいう。宇宙を膨張させているものは、斥力を持つ何かだと考えられているが、今のところまったくもって正体不明のため、ダークエネルギーと呼ばれている。
この両者は、どちらもアインシュタイン方程式によって予言されたという共通項はあるものの、スケールとしてはまったく異なるため、これまではそれぞれ独立した現象として考えられていた。そうした中で研究チームは今回、ブラックホールの質量に関する研究の中で、意外な事実を発見することになったという。
今回の研究ではまず、約600個の銀河データから、太陽の10万倍以上の質量を持つ巨大質量ブラックホールの質量が調べられた。これまでブラックホールの質量は、物質の流入がない限り一定と考えられてきたが、今回の調査でそれが一定ではなく、時間的に増加することが発見された。
次に、その質量と宇宙膨張の関係を明らかにするため、宇宙膨張のスケール因子aと、大質量ブラックホールの質量Mの間に、M∝aκという関係を仮定し、κの値を調べることにしたという。その結果、κについての確率分布が得られ、(90%信頼区間)という値が求められたとする。この結果は、ブラックホール同士の合体などといったほかの原因では説明できず、宇宙膨張がブラックホール質量に影響を与えていることを示唆しているとした。
また研究チームによると、指数κがほぼ3であることが特に注目に値するという。aの3乗は空間体積の増加率を表すが、体積に比例して質量が増加するものが宇宙に1つだけあり、それこそがダークエネルギーである。ダークエネルギーの質量密度は宇宙が膨張しても常に一定と考えられており、宇宙の体積が増加すれば、それに比例してダークエネルギーの質量も増加していく。このことは、ブラックホールとダークエネルギーが影響を及ぼし合っていることを強く示唆しているとした。
ところが、話はそう単純ではないとのこと。通常の重力理論とダークエネルギーモデルにおいては、ダークエネルギーが孤立してブラックホールやコンパクト天体を形成し、その体積が増加したとしても、外部の観測者が観測する重力質量は一定であることが知られているため、今回の観測結果は説明がつかないという。このことから研究チームは、このメカニズムを解明することが今後の大きな課題とした。