2023年2月28日から3月3日にかけて、東京ビッグサイトにて流通情報システムの総合展である「リテールテックJAPAN 2023」が開催されている。
NECは同展示会で、「生活者によりそう」と「リテーラーによりそう」の2つのテーマでブースを展開している。その中で、同社は今回、未発表のソリューションや技術を展示していた。
本記事では、リテーラー向けのAIを活用した新技術と、dotDataの小売業界向けテンプレートを紹介する。
店長の考え方を学習したAIが発注推奨量を提案
同社は小売現場における意図学習技術の活用提案として、同技術を利用した発注計画業務の最適化ソリューションを参考出展している。
意図学習技術は、過去の事例データから人の意思決定基準を学習させることで、熟練者と同等の意思決定を再現するためのAI技術だ。
人はさまざまな観点や条件を考慮し、頭の中の採点基準に従って意思決定をする。NECでは意図学習を用いて熟練者が長年の経験と勘で培う考え方や、状況変化に伴う条件の重みづけなどを再現することで、小売現場における業務の自動化につなげようと考えている。
ブースに展示されていた同ソリューションでは、スーパーマーケットでスイーツを発注する場合を想定したデモが行われていた。
商品発注では、予測販売量、期待利益、棚の見栄え、納品の手間、廃棄リスク、欠品リスクといったトレードオフになるさまざまな要素を考慮して発注を行う。しかし、経験の浅い人では、各要素を踏まえて、それぞれの商品を何個発注すればいいか判断に迷うこともある。
今回のデモでは、発注経験が豊富な店長クラスの人材の考え方や発注実績を学習させて、AIが推奨発注量を提示している。店舗周辺の環境や顧客層によって重視する要素は変わるため、要素の重要度の設定を変えたり、要素の数を変更したりすることも可能だという。
例えば、デモでは欠品を抑えつつ廃棄も少なくする「バランス型」、欠品リスクを重視して多めに発注し、機会ロスを最小限に留める「チャレンジ型」、近隣で開催するイベントの客層に合った品ぞろえを重視する「イベント特化型」など、複数タイプの推奨発注量のモデルを用意していた。
発注計画のような計画業務以外にも、配送ルートや製品生産のスケジューリング、組織内の人材配置などのマッチング、倉庫内作業のリソース配分など、さまざまな要素を考慮して組み合わせを考える業務に同技術は応用可能だという。
2024年度を目途に製品化を計画しており、現在は、いくつかの企業の個別相談に応じてPoC(概念実証)を実施している段階だ。先行して、すでに倉庫業務の作業員のシフト作成や、鉄道のダイヤ修正などのPoCが進行している。
データ分析基盤「dotData」で小売業向けのテンプレートを提供
ブースでは、NECが提供するデータ分析基盤「dotData」から新たに提供開始する小売業界向けのテンプレートのデモも展示されていた。
同テンプレートは、小売現場での機会学習の利用促進を目的に開発されたものだ。テンプレートの機能は、dotDataのソフトウェアに組み込まれているため、技術者が追加で開発を行わずに利用できる。
テンプレートにより、dotDataに顧客の関連データを取り込むことで、顧客のセグメント分けが可能だ。そして、セグメントの中から特定の顧客を選択し、データを基にAIが学習。顧客にまつわる分析内容を特徴量としてAIが提示することができる。
例えば、既存顧客のロイヤルカスタマーをランキング形式で表示し、上位にある顧客が、「なぜロイヤルカスタマーと言えるのか」という理由を説明したり、「Webサイトに特定の時間帯にアクセスしている顧客が売り上げ向上に寄与している」といった顧客の行動と購買実績を紐づけた分析も可能だという。
また、「どのような商品購入を経て、現在ロイヤルカスタマーになっているのか」なども見える化できるため、Recency(最近の購入日)、Frequency(来店頻度)、Monetary(購入金額ボリューム)の指標で顧客をランク付けするRFM分析の深掘りも行える。
デモで表示されたダッシュボードは「Tableau」を利用して作成されていたが、他のBIツールとの連携も可能だという。また、BIツールを導入せずとも、dotDataのみで分析ダッシュボードの画面なども作成できる。
現状、NECは5社の企業と、同テンプレートを利用したPoCに取り組んでいる。PoCで得た知見を基に今後、本格的な提供を進める計画だ。同社では、dotDataで分析するデータの選定や、特定の分析のためにどんなデータを組み合わせるかといった、データ活用支援も含めて支援する予定だ。