誘導センシングの限界を克服するように設計された「NCS32100」回転位置センサは、産業用アプリケーションに高速性と高精度をもたらします。
第四次産業革命(I4.0)の原動力の1つは、拡大する自動化の効率と安全性を向上させるためのロボットとコボットの普及です。組み立てラインでのオブジェクトのピッキングや配置、オペレータの安全確保など、エンドタスクを正確に制御するには、ロータリの各ポイントでの角度位置を正確に測定する必要があります。実際、ロボットのエンド機能の精度は、最終的には各可動関節の累積精度によって制限されます。産業用アプリケーションでは、回転位置の供給に、高精度を実現できる光学式エンコーダが常用されています。しかし、光学式エンコーダは高価でBOMが大きく、産業環境でよく見られる汚染物質や振動によって性能が低下します。一方、誘導式ロータリエンコーダはこれらの要因に影響されず安価ですが、誘導式エンコーダは従来から同レベルの性能を実現していませんでした。そのため、用途は主に高精度を必要としない車載アプリケーションに限定されてきました。本稿では、ロータリエンコーダの主な性能仕様を考察してから、同等の光学式エンコーダに匹敵する精度レベルを達成する、革新的な誘導型センサを紹介します。
エンコーダの選択
ロータリエンコーダは、シャフトの角度位置を測定してデジタル値に変換します。アプリケーションのエンコーダを選択する際の主な検討事項は、分解能(ビット)、精度(秒角)、再現性、レイテンシ、速度(RPM)、センササイズ(直径mm)です。基礎となるエンコーダ技術間のトレードオフを理解すると、エンコーダの選択に役立ちます。
分解能
分解能は1回転における位置コードの総数によって決まります。1回転でのコード数は有限なので、ある位置から最も近い次の位置への読み取り値の変化が検出可能な最小の位置変化です。アブソリュートエンコーダの分解能は、通常ビットで表されます。エンコーダに関するよくある誤解は、分解能が高いほどシステムの精度が向上するというものです。分解能を上げても、必ずしも精度が向上するとは限らないことを認識してください。エンコーダが精度よりもはるかに高い分解能を持つことは可能であり、一般的にはかなり可能性が高いといえます。
精度
エンコーダの精度とは、エンコーダの出力値と測定するシャフトの実際の位置との差異を測る基準です。エンコーダの精度は通常は、度、分角、秒角で測定されます。標準的なエンコーダの精度は約2.5分角(3分の1度)またはそれ以上ですが、ハイエンドの高精度エンコーダは、5秒角(0.0014度)までの精度を実現できます。多くの産業用ロボットアプリケーションでは、50秒角を上回る精度が要求されます。
再現性
再現性とは、シャフトが動作後に同じ位置に戻るとき、どの程度一貫して同じ結果を出力できるかを示すシステムの能力を表します。同一物理位置に対する測定出力の差異は再現性誤差として扱われ、通常は秒角で表されます。
レイテンシ
エンコーダを選択する際に考慮すべきもう1つのパラメータは、システムのステップ応答とレイテンシです。レイテンシは通常マイクロ秒で表され、位置測定が開始されてから計算された位置がマスタコントローラに送信されるまでの時間間隔です。つまり、マスタがエンコーダに位置を要求した場合に、応答を得るまでに要する時間のことです。
速度
センサトランスデューサからの信号を検出し、処理するのに使用される電子回路の帯域幅が有限なので、正確な位置測定値が得られるシャフトの回転速度に上限があります。シャフトが一定の回転速度に達すると、センサ電子回路が追従できなくなります。
サイズ
エンドアプリケーションによってサイズの制約が異なるため、位置センサのサイズはエンコーダの選択プロセスにおける重要な要素です。精度は一般に、センサの直径に応じて変化することに注意してください。
トランスデューサの種類
最も一般的なエンコーダは、光、誘導、または磁気トランスデューサを使用して角回転を電気信号に変換します。この電気信号は処理されてデジタル測定値に変換できます。光学式エンコーダは最も精度が高く、 磁気式エンコーダは最も精度が低くなります。誘導式エンコーダの精度は従来から2つの間に収まりますが、高精度と低精度の各方向ともかなり重複している部分があります。光学式エンコーダは精度が高いほどコストも高くなります。ユーザは精度要件とシステムコスト、信頼性、使いやすさ、メンテナンスなど、その他の要因とのバランスを図って、ニーズに最適なソリューションを見つけることが必要です。
誘導式エンコーダ
誘導式エンコーダは、プリント基板上に誘導コイルとして製造された金属製トレースを使用しています。他のロータリエンコーダと同様に、誘導式エンコーダはステータと呼ぶ固定エレメントとロータ(ターゲット)と呼ぶ可動エレメントの2つの主要部分を内蔵しています。ステータは送信コイルと2つ以上の受信コイルで構成されます。受信コイルは回路基板にプリントされ、ロータの位置に応じて変化する信号を生成します。
多くの設計で、センサ信号を処理するための電子回路もステータに組み込まれています。ロータには能動回路はなく、強磁性体か、銅などの導電材料の層またはパターンを持つ基板(PCBなど)で作られています。ステータの送信コイルにAC電流が流れると電磁界が発生します。ロータがセンサ上を通過すると、ターゲット表面の導電パターンに渦電流が発生します。これらの渦電流は逆磁場を生成し、センサとターゲット間の磁束密度を変調して、ステータの受信コイルに電圧を生成します。受信電圧の振幅と位相は、ターゲットがステータに対して回転すると変化するため、ターゲットの位置を算出することができます。
誘導式エンコーダには以下のような、産業用アプリケーションに適したいくつかの重要な利点があります。
- 誘導式センサは、液体、汚れや埃、磁場、EMI、強い振動など、ほぼすべての種類の汚染や干渉の影響を受けません。
- 誘導式エンコーダは、機械的振動に対する感度が低いため、ロータからステータへの変換とロータからステータへの回転を判別することができます。例えば、回転運動(測定される)とX、Y、Z軸の振動(除外できる)を区別することができます。
- ロバスト性:誘導式エンコーダは、ロータ表面全体とステータ表面全体間の誘導結合を利用します。動作を停止する前に、PCB コイルを切断する必要があります。
- 磁気式エンコーダとは異なり、誘導式センシングには一次温度依存性がありません。そのため、誘導式エンコーダの温度に対する精度と再現性は、磁気式センシングよりも桁違いに優れています。
革新的な誘導技術
誘導式エンコーダの特徴は産業用アプリケーションにとって非常に魅力的ですが、従来は、高精度(例えば、100秒角以下)を必要とせず、低回転速度で動作する用途に限定されていました。
オンセミの「NCS32100」は、高速で動作する産業用アプリケーションで通常、ミドルエンドからハイエンドの光学式エンコーダの精度を提供できる新しいデュアル誘導型回転位置センサです。特許技術を用いたこの革新的なデバイスは、さまざまな構成で割り当てることができる8つの信号チャンネルを備えており、最大8個のステータコイルと組み合わせて使用して、微細な位置決めや粗い位置決めを行うことができます。
NCS32100は、適切なステータおよびロータコイルと組み合わせると、高速かつ高精度で絶対位置を計算します。最先端の誘導式エンコーダを超える、最大6,000RPMの速度で 50秒角を上回る精度を実現します。また、最大100,000RPMの速度をサポートでき(ただし精度は低下)、Arm Cortex-M0+プロセッサと構成設定を格納するためのフラッシュメモリを内蔵する高度に統合されたセンサです。
NCS32100は、シンプルで使いやすいソリューションとなるような統合レベルを提供します。その他の重要な機能として、バックアップバッテリの残量が少ない場合やセンサが機能していない場合、または過熱状態が検出された場合に警告を出す故障検出機能も備えています。また、PCBの非対称性を補償できる高速自己キャリブレーションルーチン(生産ダウンタイム短縮のため)も内蔵しています。このキャリブレーションは高度に自動化され、わずか2秒と高速で生産時間への影響を最小化することができます。使いやすいプログラミングインタフェースを備えており、形状、サイズ、フォームファクタが異なる各種センサやPCBに使用できるため、柔軟な設計が可能になります。
産業用位置センシングを次のレベルへ進化させるNCS32100
産業用ロボットおよびコボットは、高精度で高速な位置センシングを提供するために、より堅牢なエンコーダを必要としています。誘導式エンコーダは、さまざまな環境要因からの干渉に対する優れた耐性を備えており、これらの産業用アプリケーションにとって大きな魅力です。過去には比較的精度が劣っていたため、複雑な電気機械システムへの誘導式エンコーダの採用は限定的でしたが、オンセミのロータリ位置センサは、産業用アプリケーションでの回転センシングに最適なソリューションを提供します。オンセミのNCS32100回転位置センサは、誘導型位置センシングへの新しいアプローチを用いて従来の限界を克服し、高速産業用アプリケーションにおける新種の高精度回転位置エンコーダを実現します。
著者プロフィール
Bryson Barneyonsemi
Product Marketing