明治は2月27日、尿酸値が高い高尿酸血症の状態で生じる尿酸塩結晶が血管に沈着すると、異物に反応する「好中球」などの免疫細胞がその沈着部分に集まるように促され、血管の炎症反応を引き起こす可能性が示唆されたことを発表した。
同成果は、明治および鳥取大学 医学部 ゲノム再生医学講座再生医療学分野の經遠智一助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、2月23日・24日に開催された「第56回 日本痛風・尿酸核酸学会総会」にて発表された。
高尿酸血症とは、血中尿酸値が7mg/dL(=70μg/mL)を超えた状態のことを指す。この状態が持続されると、血中に溶けきれなかった尿酸が結晶化し、尿酸塩結晶として関節組織に沈着した結果、"風が吹くだけでも痛い"といわれる「痛風」の原因となることが知られている。
この尿酸塩結晶は、近年になって、関節だけでなく血管にも沈着することが明らかになってきた。そのため、関節以外への影響が懸念されている。そこで研究チームは今回、尿酸塩結晶が血管の細胞に及ぼす影響を評価したという。
まず、ヒト静脈内皮細胞とヒト大動脈内皮細胞に対し、尿酸塩結晶を125μg/mLの濃度で添加。3日後に生細胞が分取され、遺伝子発現が網羅的に解析された。なお一部の遺伝子については、PCR法を用いて遺伝子発現量の変化も調べられた。
その結果、細胞内部の状態変化(複雑さの上昇)が見られ、細胞内に尿酸塩結晶が取り込まれていることが推察されたという。さらに、一部の細胞が死滅したことも確認された。また動脈硬化が起こる大動脈内皮細胞でも同様の結果が得られたとする。
遺伝子発現量の変化に関しては、炎症・細胞遊走に関連する遺伝子群の発現量が、尿酸塩結晶非添加群に比べて2倍以上に増加していることが判明。また、好中球の遊走を促進する遺伝子「CXCL1」、「CXCL2」、「CXCL8」、多くの免疫細胞を炎症部位に誘導する「CCL5」、免疫細胞の接着を促進する「CXCL10」については、尿酸塩結晶添加で有意に発現量が増加することが確認されたとする。これにより、尿酸塩結晶によって血管における細胞遊走や炎症が引き起こされる可能性が示唆されたという。
今回の研究により、高尿酸血症によって尿酸塩結晶が血管組織に沈着することで、以下の2点の側面から血管の細胞に直接的な影響をもたらし得ることが示唆されたとする。
- 静脈・動脈などのさまざまな血管の細胞死を誘発し、血管を損傷させる。
- 細胞死を起こさない場合も、炎症に関わるさまざまな遺伝子の発現量が増加し、好中球を含めた多くの免疫細胞の遊走を介して細胞の炎症反応を引き起こす。
また今回、大動脈などの血管細胞において、尿酸塩結晶が血管の細胞死を誘発することが明らかにされた。つまりヒトの体内において、高尿酸血症によって生じた尿酸塩結晶が、大動脈の細胞の傷害を介して動脈硬化のリスク因子となり得ることがより強く示唆されたのである。
高尿酸血症がもたらすヒトへの影響は、痛風だけに留まらず、今回の研究で着目された動脈硬化に加え、メタボリックシンドロームや心臓病、腎臓病などのさまざまな疾患にも及ぶことが報告されているという。さらに、研究段階ではあるが、高尿酸血症が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の死亡危険因子となる可能性があるという報告もあるとしている。研究チームは、尿酸値を正常な値に保つことは、多くの疾患を予防するためにも重要であると考えられるとした。