ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)京都研究室とミリエームの茶美会(さびえ)文化研究所は、ソニーCSL京都研究室内に数寄屋建築の思想・技法とデジタル技術が併存する茶室「寂隠」(じゃくいん)を開設、茶の湯文化の未来を見据えた研究と実証を開始する。

  • ソニーコンピュータサイエンス研究所 京都研究室内の茶室 「寂隠」三畳土間席(同社資料より)

    ソニーコンピュータサイエンス研究所 京都研究室内の茶室 「寂隠」三畳土間席(同社資料より)

限られた空間から侘び寂びが広がる日本の茶室。物質のみには依存しない"ゆたかさ"を提供する茶の湯文化は、現代社会においても有益であるはず。サイバーパンクSF「ニューロマンサー」(Neuromancer)の著者であるウィリアム・ギブソン(William Gibson)氏の仮想空間に対する概念から名付けられた研究テーマ"JackIn"(ジャックイン)に由来する名を持つ茶室は、リアルとデジタルの融合を茶の湯文化を通じた研究の場となる。三次元空間を点群データでリアルタイムに取得する作法、490年にわたり茶会で使用した道具や食事が記録されている「茶会記」のバーチャルな再現、部分的に透明度を制御できるプログラマブルな障子扉の構築など、デジタルを活用して茶の湯文化が持つディテールを「寂隠」に再現し、現代にも繋がる利点を追求し拡張する。

ソニーコンピュータサイエンス研究所 副所長、京都研究室 室長である暦本 純一氏は、動画において研究の試みを述べているが、源氏物語の若菜下にある"高き身となりても、ゆたかにゆるべる方は後れ"を引いて、"ゆたか"は、物質や富のみを意味しないことを示す。決して広くは無い工夫された空間と伝統がもたらす世界は、テレワークや仮想世界が浸透する現代においても興味深い研究だ。