北海道大学(北大)は2月23日、超高速動作に必要な高電圧下で高効率に動作する「スピン発光ダイオード(LED)」を開発したことを発表した。
同成果は、北大大学院 情報科学研究院の樋浦諭志准教授、同・大学大学院 情報科学院の江藤亘平大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する応用物理学全般を扱う学術誌「Physical Review Applied」に掲載された。
スピントロニクスにおける、さまざまな新機能デバイスの研究開発が進められており、その中で、次世代の光電変換素子として注目されているのが、半導体中の電子スピン状態を円偏光に転写して光伝送することが可能なスピンLEDだという。しかしその超高速動作に向けては、高バイアス電圧を印加する必要があるものの、半導体中では高電界により電子のスピン偏極状態が急速に失われてしまうという課題があり、その解決が求められていたという。
今回の研究では、「InGaAs量子ドット」と、5nmの「希薄窒化GaAs(GaNAs)量子井戸」を、量子力学的にトンネル結合させたナノ構造を光学活性層に用い、スピン輸送バリアに「Al0.3Ga0.7As/GaAs」、スピン注入源に「Fe/MgO」を用いたスピンLEDを作製し、「円偏光電流注入発光(EL)分光」により、半導体中の電子スピン偏極率に対応するEL円偏光度(光スピン情報)を室温で測定することにしたという。また、室温で「電界印加円偏光フォトルミネセンス(PL)測定」も行われ、高電圧下でのスピンLEDの動作機構が調べられたとする。
その結果、通常のスピンLEDでは、量子ドットのEL円偏光度が約3%であるのに対し、今回作製されたスピンLEDでは約7%のEL円偏光度が得られたという。通常のスピンLEDでは、EL発光強度が増加すると引き換えにEL円偏光度が低下するが、今回の研究のスピンLEDでは高輝度発光と高円偏光度を両立させることに成功したとする。
また、高電圧下で高いEL円偏光度が得られるメカニズムの調査も実施。量子ドットへ注入される電子スピンが少ない弱励起条件では、PL円偏光度は電界によるスピン緩和が強く反映され、5%程度の低い値しか得られないが、励起光強度を増加すると、GaNAsのスピンフィルタリング増幅が徐々に活性化されて、PL円偏光度が最大23%まで増加することが確認されたという。この結果、スピンLEDの高電圧(高電流)動作においては、量子ドット活性層への注入前に電子のスピン偏極は低下するものの、注入後にGaNAsのスピン増幅効果が働きスピン偏極が回復することで、高いEL円偏光度が得られることが解明されたと研究チームでは説明する。
なお研究チームでは今後、GaNAsのスピンフィルタリング増幅を活用したスピンフォトダイオードやスピンレーザーなど、光スピントロニクス素子の開発が急速に加速することが期待されるとしているほか、スピンLEDの性能のさらなる向上に向けては、電界によるスピン緩和を抑制する必要があることから、高電界下でスピン状態を保持しながら活性層まで輸送する電子スピン輸送技術の開発が待たれるともしている。