北海道大学(北大)は2月23日、熱の伝わり方を電気スイッチで切り替える「全固体電気化学熱トランジスタ」の開発に成功したことを発表した。

同成果は、北大 電子科学研究所の太田裕道教授らの研究チームによるもの。詳細は、ナノテクノロジーを含む材料科学に関する学際的な分野を扱う学術誌「Advanced Functional Materials」に掲載された。

電流のon/offを切替えられる半導体トランジスタのように、「熱流」のon/offを切替えられる「熱トランジスタ」を実現することができれば、電子機器から放出される微小廃熱の有効再利用につなげることが期待できるようになる。また、半導体集積回路の熱制御デバイスや、熱のシャッター、熱ディスプレイなど、これまでに無かった装置として応用するなど、熱管理用の次世代デバイスになる可能性も秘めているという。

こうした背景から、これまでにもいくつか熱トランジスタが提案されてきたが、いずれも実用上の課題を抱えていたという。たとえば、二酸化バナジウムの絶縁体-金属間の転移に伴う熱伝導率変化を利用するというアイデアでは、熱伝導率の変化が起こらなかったという。また、電解液などの液体を利用した電気化学的な遷移金属酸化物の酸化還元反応を利用する電気化学熱トランジスタは、液漏れの危険性の問題があったという。

これらの課題を踏まえ研究チームは今回、液体を一切使用しない全固体型の電気化学熱トランジスタ(全固体熱トランジスタ)の開発に取り組むことにしたという。

全固体熱トランジスタの活性層には、結晶中の酸化物イオンの出し入れが可能な「コバルト酸ストロンチウム」(SrCoOx、2≦x≦3)が用いられた。また、固体電解質としては酸化物イオン伝導性固体電解質であり、単結晶基板が入手可能な「イットリア安定化ジルコニア」(Y2O3安定化ZrO2、YSZ)が選択された。

パルスレーザー堆積法とスパッタリング法を用いて、実際に全固体熱トランジスタを作製。具体的には、上部電極のプラチナ薄膜(膜厚60nm)、活性層のSrCoOx薄膜(膜厚60nm)、固体電解質のYSZ単結晶基板(厚さ0.5mm)、下部電極のPt薄膜(膜厚40nm)という多層構造が採用されたほか、SrCoOx薄膜とYSZの化学反応を防ぐ目的で、膜厚10nmの「ガドリニウムドープ酸化セリウム」(GDC)薄膜がSrCoOx/YSZ界面に挿入されたとする。

  • 今回開発された全固体熱トランジスタの模式図

    今回開発された全固体熱トランジスタの模式図。SrCoOxを電気化学的に酸化・還元することで、熱伝導率をoff時の0.95W/mK(低熱伝導率)から、on時の3.8W/mK(高熱伝導率)に可逆的に切替えることに成功した (出所:北大プレスリリースPDF)