精子が卵子に受精させる際に起こる「先体反応」に不可欠のタンパク質「FER1L5(ファーワンエルファイブ)」を、大阪大学の研究グループが発見した。マウスの実験で、これが欠損した精子ではほとんど受精が起きず、子ができなかった。FER1L5はヒトの精子にもあり、男性不妊の診断や治療法の開発につながる可能性があるという。

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    頭部の先体に緑色の蛍光タンパク質を発現するようにしたマウスの精子が、卵子に到達したところ。正常(上)だと、先体反応で先体がなくなった。FER1L5を発現させる遺伝子(Fer1l5)を欠損したもの(下)では先体が残った(大阪大学提供)

ヒトやマウスでは、精子が卵子に近づくと頭部の「先体」が破れ、中の酵素などを放出する先体反応が起こる。酵素が卵子の透明帯という殻を溶かし、精子が通過できるようになり受精に至ると考えられている。ただ先体反応が起こる詳しい仕組みはよく分かっていなかった。

研究グループは、実験動物の線虫の受精に必須のタンパク質「FER1」に着目した。線虫の精子はアメーバのように運動するが、FER1はその運動を開始するのに必要だ。これは、ヒトやマウスの精子の先体反応に似た現象と考えられる。そこで、FER1に遺伝子配列が似たマウスのタンパク質6種類のうち、働きが未解明だった「FER1L4」「FER1L5」「FER1L6」のどれかが先体反応をつかさどっている可能性があるとみて、それぞれを発現させる遺伝子を欠損したマウスの精子を調べた。

その結果、FER1L5を発現させる遺伝子を欠損したマウスの精子は、形や運動に明らかな異常はないものの先体反応が起こらず、受精に至らないことが分かった。FER1L4、FER1L6の遺伝子を欠損したマウスの精子からは子が生まれたが、FER1L5の遺伝子が欠損していると、ほとんど生まれなかった。このことから、FER1L5が先体反応に必須のタンパク質であることを突き止めた。

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    (左)Fer1l5を欠損したマウスの精子からは子がほとんど生まれなかった。(右)体外受精もうまくいかなかった(大阪大学提供)

研究グループはFER1L5の発見が、長年の謎である先体反応の仕組みの解明の突破口になるとみている。大阪大学微生物病研究所の宮田治彦准教授(生殖生物学)は「FER1L5が先体反応を起こす詳しい仕組みや、関係する他の遺伝子の解明を進め、全容を明らかにしたい。また、FER1L5の欠損がヒトの男性の不妊の原因となっている可能性がある。不妊の診断では精子の形や運動が注目されているが、一部は先体反応の問題が関わっているかもしれず、研究を進めたい」と述べている。

成果は米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に先月26日掲載された。研究は科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業の一環として行われた。

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    精子の頭部。先体反応を促す強力な薬を加えても、Fer1l5を欠損した精子では先体反応が起こらず先体が残っている(大阪大学提供)

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