九州大学(九大)と科学技術振興機構(JST)の両者は2月20日、水素の合成や分解を担う天然ヒドロゲナーゼ酵素の機能をヒントとすることで、爆発の危険性がない混合比率において、複雑な設備を必要とせず、水中で過酸化水素(H2O2)を効率良く生成する新しい触媒を開発したことを共同で発表した。
同成果は、九大 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)/同・大学院 工学研究院の小江誠司主幹教授、三菱ガス化学らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
水(H2O)にさらに酸素原子を1個加えた過酸化水素は、工業用酸化剤・漂白剤・半導体洗浄など、さまざまな場面で用いられている。現在、化学工業における過酸化水素の合成は、アントラキノン法によってプラントにで大規模に行われている。
しかし、研究室レベルでの過酸化水素水の合成触媒として、これまで以下の3点を同時に満たしたものがなく、その開発が求められていた。
- 爆発の危険性がほとんどない状態の水素と酸素の混合比率で合成可能
- 複雑な設備を必要とせず1つのフラスコで合成可能
- 水素と酸素から過酸化水素を直接効率良く合成可能
研究チームはこれまで、水素の合成や分解を担う天然のヒドロゲナーゼ酵素の機能をヒントに、新しい触媒に関する研究開発を進めてきた。そして今回同チームは、上述の3点を満たす触媒の開発を行うことにしたという。
その結果、水素と酸素の比率が95:5と、爆発の危険性がほとんどない安全な混合比率において、1つのフラスコ以外に複雑な設備を必要とせず、過酸化水素を水中で効率良く合成する触媒の開発に成功したとする。その触媒の性能(触媒回転数=910)は、これまでに報告された均一系触媒で世界最高値を示すとしている。
研究チームは今回の研究成果をもとに、次世代のエネルギーである水素を電子源とする新たな反応開発と、このような方法で合成した過酸化水素でしかできないさらなる利用を目指して、今後も研究を展開していくとしている。