日本IBMは2月17日、国内においてメタバース市場が本格的に拡大する中、市場の概況やメタバースが果たす役割を分析し、メタバースサービスの提供者に向けた提言をまとめたレポート「過剰な期待に沸くメタバース市場、その先にある真のポテンシャルとは?」を公開した。
調査は、日本全国における15才以上の男女1,105人を対象にインターネット調査にて2022年9月12日~15日まで実施した。
レポートは、IBMのシンクタンクであるIBM Institute for Business Value(IBV)が行った調査をもとに、主にB2BおよびB2B2C領域においてメタバースサービスの提供を検討あるいは実施する事業者や、そのビジネスパートナーまたはユーザーとなり得る企業を対象に、取り組むべき方向性を示唆。
また、国内の個人消費者を対象としたWebアンケート調査を実施することで、B2C領域における個人のメタバースに対する受容性や潜在的なニーズを分析・深堀し、最新事例なども併せて紹介している。
メタバースの役割
レポートでは、VR(Virtual Reality:仮想現実)に加え、AR(Augmented Reality:拡張現実)やMR(Mixed Reality:複合現実)も含めて、メタバースを構成するコア要素として定義し、個人や企業が認識する課題やニーズに応えるため、メタバースがどのような役割を果たすのかについて3つの視点から考察している。
(1)「コミュニケーション」と「コミュニティ」の観点でのメタバースの価値
個人のコミュニケーションに関する悩みのうち情報が表現できないもどかしさは、対面やテキストといったあらゆるコミュニケーション手段で上位3位以内に入る唯一の課題であり、コミュニティに関しては人間関係の煩わしさに悩む傾向が強いという。こうした問題の解決に向けたニーズはビジネス領域においても拡大するとしている。
(2)メタバース体験者の感想とB2B2Cエコシステム拡大の可能性
相対的に満足度が低い傾向にあるB2B2Cメタバースは、コンテンツや機器の改善次第で、B2Cメタバースに匹敵する満足度を生み出す兆候がみられている。
(3)未来への期待とB2Bメタバースの革新
メタバースサービスが実現する機能19項目(目的地までの道順を現実世界に重ねて表示するナビゲーション機能)の魅力度を比較すると、上位5つのうち4つはAR/MR機能を活用したサービスであり、ゴーグルや眼鏡型機器に対する期待が強まる傾向に合わせて、B2B領域でのAR/MR利用が広がる可能性が高い。
メタバースサービスの提供者に向けたIBMの提言
上記を踏まえ、2023年は企業によるメタバースのユースケース検討が急速に広がり「エンタープライズ・メタバース元年」になると日本IBMでは予測している。以下はメタバースに取り組むサービス提供者に対して4つの視点から提言している。
1. メタバースに限定されない包括的技術力とエコシステム形成が必須
B2B/B2B2C領域のメタバースは、企業の業務効率化やDXの一環として推進することが前提となる。したがってサービス提供者は(メタバースも含め)ITとビジネスの「総合力」を獲得していくために、包括的な技術ケイパビリティーの醸成や、幅広いエコシステムの形成が不可避となる。
2. 「メタバースありき」ではなく「企業の課題解決ありき」の実績が肝心
サービス提供者側の思考が「メタバースありき」では顧客の求める本質的な課題解決にはつながらない。各産業および用途特有の課題解決の実績を豊富に持ちつつ、課題解決を行うための1つの選択肢としてメタバースにも精通するパートナーの選定が、サービス提供者には肝心となる。
3. 「アジャイル型経営」を基軸とした、顧客のデジタル組織強化とマインドセット変革が急務
上記の技術、エコシステム、実績といった観点に加えて、サービス提供者は企業のデジタル組織強化や経営層の意識変革を後押しし、アジャイル型経営を定着させることで、事業環境の変化への柔軟な対応や迅速な事業創出を促進することが不可欠となる。
4. 社会課題解決とサステナビリティ実現を前提とした メタバースの推進が不可欠
サービス提供者は、メタバースを含めたDXの取り組みを企業と推進する上で、目先のビジネスの収益性などに囚われ過ぎることなく、中長期的な視点で社会課題の解決やサステナビリティの実現に重点を置くパートナーとの連携を進めることが必須となる。
IBMのメタバース関連の取り組み
日本IBMでは、(1)「コミュニケーション」と「コミュニティ」の観点でのメタバースの価値、(2)メタバース体験者の感想とB2B2Cエコシステム拡大の可能性、(3)未来への期待とB2Bメタバースの革新、においてさまざまな取り組みを進めており、レポートではその一部を紹介している。
まず、(1)では同社内のコミュニケーション活性化に向けた部門懇親会の実証を進めているほか、500人以上の新入社員の入社式をメタバース空間上で実施するなど、POC(Proof Of Concept:概念実証)およびPOV(Proof Of Value:価値実証)を推進。
また、(2)については、ある医療機関の建物を3Dモデルとして再現し、患者や家族が来院する前に医療従事者を含めた病院の様子を体験できる仕組み作りや、外出が困難な患者向けに病院外を再現したバーチャル空間で家族や友人と交流できる仕組み作りに取り組んでいる。
さらに、(3)に関してはAR/MRを活用した業務効率化や、VRを活用したビジネスプロセスのデジタルツイン化などの実績を国内外で多数保有しており、将来的にはそれらを組み合わせることで、ビジネスプロセス、事業モデルの変革を加速させることを視野に入れている。