東京工業大学(東工大)とSBIファーマは2月15日、細胞内のミトコンドリアで生産されるアミノ酸「5-アミノレブリン酸」(5-ALA)に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がヒトの細胞に侵入する際に利用する細胞表面にある受容体「アンジオテンシン変換酵素2」(ACE2)の発現抑制効果があることを発見したと発表した。
同成果は、東工大 生命理工学院 生命理工学系の奈良永理子大学院生、同・小倉俊一郎准教授、SBIファーマの共同研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLOS ONE」に掲載された。
SARS-CoV-2は、ヒトの細胞の表面に存在するACE2を介して侵入することが知られている。よくACE2は鍵穴に例えられ、鍵に見立てられるウイルス表面の「スパイクタンパク質」を差し込むことで細胞のドアが開けられてしまい、侵入を許してしまうなどと説明される。
そのため、これまで多くの治療薬・予防薬の研究開発では、SARS-CoV-2とACE2の結合の阻害、要は鍵穴に鍵を差し込めないようにするアプローチが採用されてきた。しかし残念なことに、現時点でそのアプローチでは特効薬といえるような効果の高い薬剤の開発には至っていない。
そうした中、研究チームは、小児がSARS-CoV-2に感染しにくい理由の1つとされる、一般的にACE2の発現量が低いということに着目したという。つまり、これまでとはアプローチの仕方を大きく変え、ACE2の発現量を抑制することができれば、SARS-CoV-2への感染リスクを低減させられる可能性があると考えたのである。しかし、これまでのところ、そのACE2の発現を抑制する方法を見出すことができていなかった。
そこで研究チームが着目したのが、実験室レベルではあるものの、5-ALAにSARS-CoV-2感染抑制効果があるという多くの指摘だったとする。それを受けて今回の研究では、培養細胞に5-ALAを接触させる実験を行うことにしたという。
5-ALAはミトコンドリアによって産生されるアミノ酸の一種で、ヘムやシトクロムと呼ばれるエネルギー生産に関与するタンパク質の原料となる重要な物質だ。加齢に伴って生産性が低下することや、焼酎粕や赤ワインなどにも含まれるほか、植物の葉緑体の原料としても知られている。今回の研究では、5-ALAとして「5-アミノレブリン酸塩酸塩」が用いられた。
実験の結果、5-ALAによってACE2の発現量が顕著に低下することが確認されたという。これらの培養細胞には、5-ALAから代謝されたプロトポルフィリンならびにヘムが蓄積していることが確認されており、これらの代謝産物がACE2の発現を抑制したことが考えられるとするほか、5-ALAに加えて鉄(クエン酸第一鉄ナトリウム)も加えたところ、その抑制効果がさらに顕著になったとする。
これまで、5-ALAによるSARS-CoV-2感染抑制効果の詳細なメカニズムはわかっていなかったが、今回の研究成果はそれに迫るものだと研究チームでは説明しており、今回の研究により、ACE2の発現抑制効果が発見された5-ALAには、新たな予防薬としての可能性が期待できるとしている。