甲南大学は2月14日、ヒトの細胞の中から、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の複製を担うタンパク質の「RNA依存性RNAポリメラーゼ」(RdRp)の働きを抑えるRNAを発見したことを発表した。
同成果は、甲南大 先端生命工学研究所(FIBER)の遠藤玉樹准教授、同・高橋俊太郎准教授、同・杉本直己教授(FIBER所長)らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する化学全般を扱う学術誌「Chemical Communications」に掲載された。
SARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に限らず、人類が未知のウイルス感染症によって健康被害や経済損失を受ける危険性は常に存在している。mRNAワクチンを始めとしたワクチンは、感染症の発症を予防するための手段ではあるものの、未知のウイルスに対して効果的なワクチンを開発するには時間と労力を要する。また、ウイルスの変異によるワクチン効果の低下も起こり得るのはCOVID-19で経験している真っ最中である。そのため、ワクチンが開発されるまでの対応、あるいはワクチン開発後も、ウイルス感染症の重篤化を抑えるための手段として、ウイルスの増殖を抑制できる薬剤を開発することが望まれている。
DNAから転写反応を経て合成されるRNAは、独特の立体構造を形成することで、さまざまな機能を発揮することが可能であり、そのうちの1つに、タンパク質などの特定の分子を認識して特異的に結合する機能が知られている。そこで研究チームは今回、SARS-CoV-2のRdRpに、ウイルス自身のRNAよりも強く結合できるRNAを獲得できれば、ウイルスの複製を抑制できるのではないかという仮説を立て、獲得したRNAを薬剤開発に展開することを念頭に、もともとヒトの中に存在するRNAからRdRpの働きを抑制できるRNAを獲得することを目指すことにしたとする。
甲南大のFIBERでは、DNAやRNAが形成する特徴的な構造や機能を物理化学的に解析する研究を進めてきており、そうした取り組みの中で、個別の配列を持つRNAが固定化された何百万種類もの微粒子を作製する技術「RNAキャプチャー微粒子群」(R-CAMPs)を開発してきたという。