ロシア国営宇宙企業ロスコスモスは2023年2月11日、国際宇宙ステーション(ISS)にドッキング中の「プログレスMS-21」補給船から、冷却材が漏洩したと発表した。
同様の事故は昨年12月、有人宇宙船「ソユーズMS-22」でも発生。この事象は微小隕石などの衝突が原因と考えられているが、今回相次いで発生したことで、製造・組み立て時のミス、欠陥による品質不良を疑う声もある。
ソユーズMS-22の事故では、代わりの宇宙船を無人で打ち上げることが決まるなど大きな影響が出たが、今回の事態により、さらなる影響と混乱をもたらす可能性もある。
プログレスMS-21補給船から冷却材漏れ
ロスコスモスによると、モスクワ時間11日午後、プログレスMS-21補給船で減圧の発生を確認。正確な発生時刻は不明だが、発表は11日15時58分(日本時間21時58分)に行われた。
当初、どこで減圧が起きたのかなど詳しい状況は不明だったが、その後の調査で、減圧が起きたのは補給船の熱制御システムで、冷却材が漏れ出していることが確認された。
ロスコスモスは「原因は調査中」としている。
ロスコスモスで有人宇宙計画の責任者を務めるセルゲイ・クリカレフ氏は、「残念ながら、熱制御システムを直接見ることはできません。現在、専門家が、漏洩が発生したと見られる場所を調べる方法を検討しています」と述べている。
「(ロボットアームなどを使い)高画質の写真を撮影できれば 穴がどのような形をしているのか、何が原因だったのか、何がどのように起こったのか、絞り込むことができるでしょう」。
なお、ISS内の温度と圧力はすべて正常で、宇宙飛行士に危険はなく、ISSの運用は通常どおり継続中だという。ISSには現在、コマンダーのセルゲイ・プロコピエフ宇宙飛行士をはじめ、若田光一宇宙飛行士ら計7人が滞在している。
最初の報告から約3時間後には、米国航空宇宙局(NASA)も声明を発表し、ロスコスモスと同じ内容を伝えている。
プログレスMS-21は昨年10月26日に打ち上げられ、2日後の28日にISSとドッキングし、補給物資などを送り届けた。現在はISSで出た廃棄物などが積み込まれており、2月18日にISSから出航、大気圏に再突入して燃え尽きる予定だった。
ソユーズMS-22の事故と類似?
今回と同様の冷却材漏れは昨年12月、ISSにドッキング中の有人宇宙船「ソユーズMS-22」でも発生している。クリカレフ氏も、「プログレスMS-21の状況は、ソユーズMS-22で起きたことと似ています」と認める。
ソユーズMS-22をめぐっては、これまでの調査で、微小隕石(マイクロメテオロイド)などの衝突によって熱制御システムの配管に穴が空き、そこから冷却材が漏れ出したと考えられている。
しかし、今回同様の事態が相次いで発生したことで、その推測に疑問符がつくことになった。わずか2か月のうちに、異なる宇宙機のほぼ同じ場所に、同じように微小隕石が衝突し、同じような事故を引き起こすということは、確率的に考えにくいからである。
逆に有力視されるのが、製造や組み立て時のミス、部品の欠陥など、すなわち人為的、技術的なミスによる品質不良によって熱制御システムが壊れたという可能性である。
これまでのソユーズMS-22の事故調査では、この可能性は否定されている。1月11日にロスコスモスとNASAが開いた記者会見では、クリカレフ氏は「組み立て時の記録などを調査した結果、品質不良を裏付けるものはなにもありませんでした」と語っている。NASAも、「すべての情報が、微小隕石が衝突した可能性を示しています。これまでのところ、ロスコスモスと見解は一致しています」としていた。
しかし、今回の事態を受けて、あらためて品質不良が可能性のひとつとして浮上するとともに、ソユーズMS-22の事故調査の妥当性にも疑問符がつくことになった。
ロシアの有人宇宙開発をめぐっては、この5年間に限っても品質不良が原因となった事故が相次いでいる。2018年には、「ソユーズMS-09」宇宙船に製造時に誤って開けられたと見られる穴が見つかり、空気漏れが発生。同じ2018年には、「ソユーズMS-10」宇宙船の打ち上げが失敗した。さらに2021年には、ISSの新モジュール「ナウーカ」が意図せずスラスターを噴射する事故を起こしている。こうした経緯からも、ソユーズMS-22の事故の本当の原因は品質不良だったではという見方を増長させている。
品質不良が原因だった場合、ソユーズMS-22とプログレスMS-21で事故が起きた以上、ソユーズMS-23でも同様に起きる可能性は否定できない。とくにソユーズとプログレスは双子のような関係にあり、構造や部品、システムの多くが共通している。そのため、再度、入念な試験や検証が必要とされるだろう。
クリカレフ氏も、「今後打ち上げ予定の宇宙船や補給船に影響を与える可能性があるため、これが他の機体にも共通する事象ではないことを確認する必要があります。打ち上げ準備作業、機体や部品に使用された材料、熱制御システムの組み立てに関して分析を行う予定です」と語る。
ISS運用計画への影響
また、対応策やそれにかかる時間によっては、ISSの運用計画に大きな影響を及ぼす可能性がある。
ロスコスモスは現在、ソユーズMS-22の事故を受け、代わりとなる新しい宇宙船「ソユーズMS-23」を無人で打ち上げることを計画している。ソユーズMS-22の搭乗員であるプロコピエフ氏ら3人の宇宙飛行士は、ソユーズMS-23に乗り換えたうえで今年後半に地球へ帰還することになっている。
1月の会見では、ロスコスモスは「ソユーズMS-22の事故原因は微小隕石の衝突と考えているが、予防措置として、ソユーズMS-23の熱制御システムを『ダブルチェック、トリプルチェック』した」とし、問題がないことを念入りに確認したとしている。
また、今回の事故を受けた声明でも、ロスコスモスとNASAはともに、「現時点では、プログレスMS-21の状況がISSの飛行計画に変更をもたらすことはない」としている。
しかし、ソユーズMS-23に追加の試験や部品の交換などが必要となれば、打ち上げの延期は避けられない。そればかりかソユーズそのものがしばらく飛行停止を強いられる可能性もある。あるいは結論がどうあれ、調査が長引くことも考えられる。
いずれにしても、その場合には、プロコピエフ氏ら3人の宇宙飛行士の帰還方法、今後のISSの運用計画などをめぐって、さらなる影響と混乱が生じることになろう。
参考文献
・VK Roskosmos
・International Space Station Operations Update, Crew Continues Normal Activities - Space Station