国立天文台 ハワイ観測所は現地時間2月9日、すばる望遠鏡を用いた観測から、木星の衛星を新たに12天体発見して合計92天体となり、83天体とこれまで衛星を最も多く従えていた土星を上回ったことを発表した。
同成果は、米・カーネギー研究所のスコット・シェパード教授らの研究チームによるもの。詳細は、国際天文学連合 小惑星センターの小惑星電子回報を通じて発表された。
現在、太陽系には、2006年に準惑星という新カテゴリーに分類された冥王星に代わり、惑星の定義を満たす新たな9番目の天体として、「プラネットX」(Xはローマ数字の10ではなく、未知を表すアルファベットのX)が、海王星軌道よりも遠方に存在する可能性が、一部の彗星の軌道の偏りなどから示唆されている。そのプラネットXの探索を、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(ハイパー・シュプリーム・カム)などを用いて行っているのが研究チームだという。
2021年と2022年に観測した領域の近くに、たまたまあったのが木星だという。そのため、研究チームは太陽系外縁でプラネットX探索を行うのと同時に、木星近傍で移動している天体も探索することにしたという。発見には、すばる望遠鏡(2021年9月)と、セロトロロ汎米天文台のブランコ望遠鏡(2022年8月)が主に使用され、その軌道を確認するためにチリのラス・カンパナス天文台のマゼラン望遠鏡による追観測が実施された。
ガリレオ衛星よりも外側を回る木星の衛星は、長半径と傾斜角という軌道の特徴から7つのグループに分けられている。今回新たに発見された第81衛星(2022-Y68)から第92衛星(2023-B96)までの12天体の内訳は、ヒマリア群に2個、逆行衛星のアナンケ群に3個、同じく逆行衛星のカルメ群に5個、同じく逆行衛星のパシファエ群に1個、そして第46衛星カルポと同様の軌道を持つ1個となっている。なお、12個はいずれも直径3km以下の小さな天体で、まだ固有名はつけられていない(木星には以前に発見されて、まだ固有名がつけられていない衛星がほかにもある)。
なおシェパード教授によれば、木星の周囲を巡る天体の場合、研究チームの探査技術なら直径が1km以上あればすべてを検出することができるという。実は、今回の12天体以外にも衛星候補天体はまだ多数あり、現在も多くの追観測を実施中とした。軌道などの正式な確認が取れて承認され次第、またさらに追加発表が行われるものと思われる。近い将来、木星の衛星数は3桁に突入する可能性もあるようだ。
このような小さな衛星は、かつてはある程度の大きさを持っていた衛星が、彗星や小惑星、ほかの衛星との衝突でバラバラに破壊されてできたと考えられるという。ガリレオ衛星以遠の衛星は、軌道の特徴で7グループに分類されることは上述したが、それらは7つの親衛星の破片から誕生した子衛星・孫衛星たちが、親衛星の軌道要素を維持している結果と考えられるという。また、これらの外側の衛星は、巨大惑星領域で形成された天体の最後の残りであり、惑星の形成と進化を理解する上でも重要な存在だとする。
ちなみに木星に関しては、2023年中に宇宙航空研究開発機構(JAXA)も参加しているヨーロッパ宇宙機関(ESA)が主体の国際共同探査の木星氷衛星探査・ガニメデ周回探査計画「JUICE」が打ち上げられる(木星軌道への投入時期は2030~31年頃)。さらに、2024年10月にはNASAも木星氷衛星探査計画「エウロパ・クリッパー」を打ち上げる計画(軌道投入は2030年4月)。研究チームは、両探査機が木星を訪れる際に、発見された衛星のいくつかに接近して撮影する機会があるのではないかと期待しているとしている。