SEMIが、2022年10月に米国政府が打ち出した中国に対する先端半導体製造装置の輸出規制について、日本やオランダなどの同盟国が米国並みに厳しい対応をしないと中国への締め付け効果が不十分になる恐れがあると警告したとロイター通信が2月頭に報じている。
それによるとSEMIは、同盟諸国の規制が米国ほど厳しくならなかった際の懸念を表明したほか、同盟各国が自国企業による中国の半導体産業支援も禁止する必要があると訴えたという。対中半導体規制強化に関する米国商務省産業安全保障局(BIS)あてのパブリックコメントの中でそのように主張したとみられる。すでに、米国半導体工業会(SIA)も同様の主張をパブリックコメントで行ったと発表しているが、SEMIはパブリックコメントの内容について、2月10日時点で公式には発表していない。
米国の対中半導体規制により、中国への米国企業製の先端半導体製造装置の輸出が事実上禁止されているほか、米国からの技術提供や技術者支援ができない状態となっている。こうした厳しい規制を米国企業だけに課すと、同盟各国の企業が米国企業のシェアを奪い、中国での売り上げを伸ばす可能性があり、中国への締め付けが不十分になるだけではなく米国企業だけが割を食うというのが、SIAやSEMIなどの米国の業界団体の主張ということになる。
しかしSEMIは、中国にも多数の会員企業を抱えているほか、多くのSEMI会員企業にとって中国は世界最大の市場となっている。そのため、SEMIによる上述のような米国産業の視点のみで、米国の利権だけを守るような主張は、米国以外の国々、特に中国の会員企業からの反発を買う可能性が高い。
こうした状況を鑑みたのか、SEMIのグローバル・アドボガシーおよび公共政策担当バイスプレジデントのJohn Cooney氏が、「SEMIの公共政策の焦点」と題するコメントを2月3日付けで発表した。
同氏は、その中で「SEMIは『自由貿易の原則』を基盤としている。会員企業の公平な競争条件の追求は、SEMIにおける中心的な焦点となっており、開かれたグローバル市場での創意工夫に基づく競争を可能にしている」と、自由貿易を擁護する立場を示し、米国政府の対中半導体規制に反対ともとれるコメントを述べている。
さらに、「SEMIは、サプライチェーンを支持し、産業を支持し、国に対して中立である。我々は、半導体製造のグローバルな性質を認識しない一方的な行動に反対する一方で、サプライチェーンの効率化と知的財産保護を推進する努力を支持する。SEMIは、世界中の2500以上の会員企業を代表しており、各国政府から、それらの地域で事業を展開している企業の見解を提供するよう頻繁に求められている。2022年10月7日に輸出管理規則の強化が発表された後、BISよりパブリックコメントを出すよう要求されたので、SEMIも提出している。他の業界団体も同様にこの要求に応えている。SEMIが提出した回答は、自由貿易、国境を越えた協力、および堅牢なサプライチェーンが、すべての人々に利益をもたらすことを目的とした革新と技術の進歩の不可欠な要素であるという私たちの核となる信念からの逸脱または逆転を表明したわけはない」と述べている。
しかし、今回のロイターによる報道が正しかった場合、今回のパブリックコメントでの主張は、SEMIの自由貿易擁護の基本姿勢からの逸脱するものと捉えられてもおかしくない。とりわけ、規制の当事者となるSEMI Chinaの会員企業などが受け入れるかどうかは疑問が残るところである。