東京商工リサーチ(TSR)は2月10日、物価高に伴う上場企業の「賃上げ・手当支給」調査の結果を発表した。上場企業の68社が物価高で賃上げ・手当支給を実施し、一時金の最高は15万円、平均6万7,120円であったという。

  • 左:業種別、右:上場区分別(出典:東京商工サーチ)

    左:業種別、右:上場区分別(出典:東京商工サーチ)

総務省によると2022年12月の消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年同月比4.0%で、41年ぶりの水準であった。急激な物価高を理由に2023年2月までに賃金のベースアップ、一時金の支給を公表した上場企業は68社あることがわかった。

物価高が顕在化した2022年7月以降、一時金等の支給や賃金引き上げを公表した上場企業を集計したところ、上場68社のうち「手当(一時金)」の支給は41社。そのうち支給金額が判明した25社の平均額は6万7,120円(中央値5万円)で、10万円以上支給する企業は8社、最高はサイボウズの15万円であったという。

68社を業種別でみると、最多は製造業の17社で4分の1を占めた。次いで、情報通信業が15社、サービス業11社、卸売業7社の順となった。円安のほか、コロナ禍による経営への影響が限定的だった企業や業種で早い時期から物価高に対する賃上げ、手当支給を決定している。

物価高に伴う手当支給、ベースアップを公表した業種は、「製造」が最多で17社。次いで「情報通信」の15社、 サービス11社、卸売7社と、円安の恩恵とコロナ禍の影響が比較的軽い業種が上位を占めた。コロナ禍が直撃した外食(6社)、小売(5社)でも同業他社に先駆けて実施する動きがみられた。人手不足も深刻さを増し、苦境に直面する業種でも春闘を契機に賃上げで人材確保を強める可能性があると、TSRはみている。

上々区分別では、プライム市場が50社で最多であったが、スタンダード市場14社、グロース市場4社でも実施があり、中堅企業や新興企業にも広がりが見られるという。工作機械メーカーの太陽工機(新潟県、スタンダード市場)は2022年4月、正社員を対象に基本給平均4.6%のベースアップを行ったが、2023年1月に再び同16.9%引き上げると同時に初任給も引き上げ、優秀な人材の長期定着を図っているという。

支給形態別では、期間を定めて支給する「手当」(一時金・臨時賞与などを含む)が41社で6割を占めた一方で、恒久的なベースアップ(ベア)を実施した企業も25社で、さらに手当とベア両方を実施した企業は2社あった。

  • 支給形態別(出典:東京商工サーチ)

    支給形態別(出典:東京商工サーチ)

CPIが前年同月比3.0%を超えた2022年8月以降、 大手企業を中心に従業員への生活支援を目的とした手当給付の流れが進んだ。さらに、一般的に春闘を中心に決算期や年度の節目に合わせて実施されることの多いベアも、物価高が加速した秋口以降に急ピッチで実施した企業もあった。

物価高を背景にした「手当(一時金、臨時賞与含む)」の支給額が判明した25社では、支給額の最多は30,001円〜50,000円で11社。次いで70,001円〜100,000円が7社あり、最高額はサイボウズの15万円。スマホアプリやソーシャルゲーム開発のコロプラ(東京都、プライム市場)は、月額1万円を社員(契約社員を含む)を対象に2023年1月から2023年12月まで毎月支給するなど、企業により支給額だけでなく支給方法にも特徴が出ている。

  • 手当支給額別(出典:東京商工サーチ)

    手当支給額別(出典:東京商工サーチ)

一時金等の支給や賃金引上げを公表した上場企業は、CPIが前年同月比3.0%となった翌月の2022年9月は4社だったが、10月10社、11月14社、12月18社と物価上昇に伴い増加の一途をたどった。収束の気配が見えない物価高に対し、手当支給やべア引上げを実施するのは上場企業が中心となっており、こうした従業員の待遇見直しが中小企業にも広がるか注目されるとしている。

  • 公表企業の月別の推移(出典:東京商工サーチ)

    公表企業の月別の推移(出典:東京商工サーチ)