東京工科大学は、痛み止め薬(処方薬)「セレコキシブ」におけるミトコンドリアを介した新たな抗がん性の作用機構を発見したことを発表した。
同成果は、同大 大学院バイオ・情報メディア研究科の丸山竜人助教、杉山友康教授らの研究グループによるもの。詳細は、2023年1月24日付で独実験臨床薬学毒物学会の学術誌「Naunyn-Schmiedeberg's Archives of Pharmacology」(オンライン版)に掲載された。
ロキソニンやアセトアミノフェンと共に代表的な痛み止め市販薬として知られているセレコキシブは、シクロオキシゲナーゼ(COX-2)を選択的に阻害する非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)であり、近年、抗がん作用を有することから注目されるようになっているが、その分子機構についてはよく分かっていなかったという。
セレコキシブは、小胞体内のカルシウムイオンを枯渇させ、小胞体に過剰なストレスを与えることで、細胞が生体の恒常性を保つために自ら死滅するシステム(細胞死)を誘導することから、研究グループでは今回、そうした細胞死において重要な役割を担う細胞小器官のミトコンドリアを介した誘導機構の解明に挑んだという。
具体的には、ミトコンドリアの状態を把握するための指標として、ミトコンドリア膜電位を用いることとし、ヒト大腸がん細胞株HCT116にセレコキシブを複数の濃度条件で処理したところ、セレコキシブの処理濃度依存的にミトコンドリア膜電位が消失することを確認したという。
この消失は、ミトコンドリア生合成に異常が生じると引き起こされると考えられるという。
また、ミトコンドリア生合成に関連する遺伝子の発現量にセレコキシブが与える影響を検証したところ、セレコキシブの処理によりそれら遺伝子の発現量が低下していることも確認。これらにより、セレコキシブによるミトコンドリア膜電位の消失の一因として、ミトコンドリア生合成遺伝子の発現低下が関与していることが示唆され、これまでの研究から、ミトコンドリア膜電位の消失を介した細胞死を誘導するshRNA配列の標的遺伝子がTMEM117であることが分かっていたことから、その発現量への影響を調べた結果、セレコキシブの処理によりTMEM117の発現量が減少していること、ならびにミトコンドリア生合成に関連する遺伝子の発現量がTMEM117遺伝子の発現を抑制した場合でも低下することを確認したという。
これらの結果について研究グループでは、セレコキシブによるミトコンドリア膜電位の消失は、TMEM117の発現低下を介したミトコンドリア生合成に重要な遺伝子の発現抑制によって引き起こされることが示唆されたと説明している。
なお、研究グループでは、今回の研究は、COX-2を発現していないがん細胞株に対して、セレコキシブはがん細胞死の初期にみられるミトコンドリア膜電位の消失を引き起こすことを示すものであるとするほか、COX-2選択的阻害剤として使用する一般的な濃度と比べて、高い濃度で作用させたときに見られた現象であり、そうした高濃度セレコキシブには抗がん作用があることが知られていたが、今回の成果はCOX-2を標的としない新たな作用経路を発見したものと言えると説明。がん細胞におけるミトコンドリアの不安定化はがん治療に効果的であるため、今後、セレコキシブを利用した新たながん治療の戦略開発などへの応用が期待されるとしている。
2023年2月14日訂正:記事初出時、タイトルならびに本文中にて市販薬という表現を使用しておりましたが、発表主体である東京工科大学が、当該部分を修正したことを受け、記事中の当該部分の表記を変更させていただきました。