九州大学(九大)、大阪大学(阪大)、産業技術総合研究所(産総研)、科学技術振興機構の4者は2月7日、化学気相成長法と呼ばれる方法で均一な多層の「六方晶窒化ホウ素」(hBN)を大面積に合成し、さらにそれを用いて大規模なグラフェンデバイスの特性向上につなげることに成功したと共同で発表した。
同成果は、九大 グローバルイノベーションセンターの吾郷浩樹主幹教授、同・パブロ・ソリス-フェルナンデス特任准教授、同・深町悟研究スタッフ、阪大 産業科学研究所の末永和知教授、産総研のユンチャン・リン主任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のエレクトロニクスの全般を扱う学術誌「Nature Electronics」に掲載された。
次世代半導体材料として、二次元材料であるグラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)などの研究開発が進んでいる。しかしそれらは、構成原子の大半が表面に出ているため、設置する基板の凹凸や電荷、および表面に吸着した酸素や水などに大きな影響を受けてしまい、本来の優れた特性を発揮できないという課題を抱えていた。
それらの課題を解決できるのが、絶縁性の二次元材料であり、グラフェンと同じ六方格子からなる上、原子的にフラットな構造を持つhBNだ。上下を多層hBNで保護したグラフェンは本来の特性が現れ、電気・光特性が格段に向上することが確認済みだ。またTMDCにおいても、多層hBNはキャリア移動度や発光効率の向上などに有効である。こうした理由から、二次元材料の物性探索や電子・光デバイス応用には多層hBNが不可欠となっている。
しかしグラフェンやTMDCとは異なり、多層hBNを大面積かつ均一に合成する技術はまだ確立されておらず、今後の二次元材料の半導体応用を考える上で、デバイスに使えるレベルの多層hBNを大面積で合成することが強く望まれていた。そこで研究チームは今回、それを試みることにしたという。
hBNの合成は、ホウ素と窒素を含む原料であるボラジン(B3N3H6)を高温下で反応させる化学気相成長(CVD)法を用いて行われた。ボラジンの分解と窒化ホウ素の生成において重要な役割を果たすのが、鉄とニッケルを主成分とする市販の合金箔だ。ボラジンを約1200℃に加熱した反応炉に導入して、この合金箔と反応させることで、箔の表面に厚みが2~10nmで大面積の多層hBNを得ることに成功したという。これを光学顕微鏡などで観察した結果、色むらが少なく、厚さが比較的均一な多層膜が確認された。