日向灘で過去最大級とされる1662年の地震が、従来の推定のマグニチュード(M)7.6を上回るM7.9で、エネルギーが約2.8倍の巨大地震(M8級)だった可能性が高い、と京都大学などの研究グループが発表した。プレート(岩板)の境界がゆっくり動いて揺れに気づかない「スロー地震」の近年の研究成果などから新たな断層モデルを構築。さらに津波のシミュレーションや堆積物の調査を踏まえて示した。
日向灘の沖には、フィリピン海プレートとユーラシアプレートが接し、駿河湾から続く南海トラフ(浅い海溝)の西端がある。M7級の地震が数十年ごとに起きており、1662年のものは歴史書の被害の記述を基に、最大級のM7.6と推定されてきた。外所(とんところ)地震とも呼ばれ、強い揺れと大きな津波があったという。ただ揺れと津波の両方を説明できる断層モデルはなく、仕組みは未解明だった。
こうした中、2011年にM9の東日本大震災が発生。やはり強い揺れと大きな津波が特徴で、巨大化した原因の一つに、プレート境界の浅い領域のスロー地震が指摘され、検討が進んだ。そこで研究グループは1662年日向灘地震で、浅いスロー地震の震源域が津波の波源域になったとの仮説の検証に挑んだ。(A)最新の知見を基にした新たな断層モデルの構築、(B)津波堆積物調査、(C)津波浸水シミュレーションを行った。
(A)海底地震観測で分かったスロー地震の状況や、人工地震波によるプレート境界の深さの情報などから断層モデルを構築した。陸に近く、強い揺れを起こす深い「断層1」、そこから浅い領域に延びた「断層2」、浅いスロー地震の震源域の「断層3」の3つの断層からなる。断層1と2は過去100年にM7級の地震が繰り返し発生した領域。従来ならこれらのみでモデルとするところだが、浅いスロー地震の震源域が大きくすべるとの東日本大震災の知見を新たに反映し、断層3を加えた形だ。知見を受け、断層3は大地震時に速くすべり、すべり量も断層1と2に比べ数倍大きくなるよう設定。各断層の長さとすべり量を求めた。
(B)宮崎県沿岸で2018~20年に津波堆積物を調査。日南市小目井の地下1メートルには、海岸の砂に似た、貝殻を含む堆積物が広範囲に分布していた。陸に向かって層が薄く、1662年地震の津波の堆積物と考えられた。
(C)津波浸水シミュレーションでは、1662年地震の津波は(B)の津波堆積物が見つかった地点まで浸水したことが示された。
一連の結果から、断層モデルから得られる地震はM7.9となり、1662年地震が巨大地震だった可能性が示された。政府の地震調査委員会が昨年3月、長期評価に日向灘の巨大地震の可能性を盛り込んだのは、この成果の一部を先行して反映したものだという。
研究グループの京都大学防災研究所宮崎観測所の山下裕亮助教(観測地震学)は会見で「日向灘で巨大地震は起こらないとの通説が覆る可能性を、初めて科学的に示した。この100年で経験した地震では全く説明できない。歴史地震の断層モデルの構築で、最新の地球物理学の知見を生かすモデルケースとなった。ただ、まだ多くの問題がある。津波堆積物のデータが1地域しかないなど、データが少ない。設定の不確定性が大きく、他の地域も含む検証が必要だ。1662年以前の巨大地震の履歴の解明も重要。地震が起こる前に調査研究を急ぐ必要がある」と述べている。
研究グループは京都大学、産業技術総合研究所、北海道立総合研究機構で構成し、成果を先月11日に発表した。成果の一部は国際地球物理学誌「ピュア・アンド・アプライド・ジオフィジックス」に昨年12月15日に掲載されている。