2023年2月1日から3日までの3日間にわたって、東京ビッグサイトで開催された「nano tech 2023(第22回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議)」では、最終日の2月3日に主催者であるnano tech 実行委員会より「nano tech大賞2023」の受賞者が日本ゼオンであることが発表された(図1)。

  • nano tech大賞2023の受賞風景

    図1 nano tech大賞2023の受賞風景 (出所:日本ゼオンプレスリリース)

受賞理由は、「カーボンナノチューブの熱電変換素子で地震や火災、熱配管の不具合を瞬時にセンシングして無線で知らせるシステムなどを開発」したことによるもので、nano tech 2023内の「ナノカーボンオープンソリューションフェアコーナー」内に設けられた日本ゼオンブースでは、同社のナノカーボン「ZEONANO」を基にしたその応用製品などが展示されていた。

また、2月2日には日本ゼオンのカーボンナノチューブ(CNT)事業を率いているCNT事業推進部の上島貢事業推進部長(図2)がNEDOのセミナーに登壇、「カーボンナノチューブ応用製品の開発と産業応用に向けた取り組み」という講演テーマで講演した。

  • nano tech 2023のNEDOセミナーに登壇した日本ゼオンCNT事業推進部の上島貢事業推進部長

    図2 nano tech 2023のNEDOセミナーに登壇した日本ゼオンCNT事業推進部の上島貢事業推進部長

同講演では、上島事業推進部長がCNT応用の開発品をいくつか紹介した。現在、東京理科大学と共同研究を進めている地震による建物損傷診断システム事例など興味深い事例も紹介された。同氏は、建物内部に「研究開発中の損傷診断システムとして組み込むと、地震振動によってCNT部分が振動して発熱した物理量変化を電気信号に変えて、その損傷の程度などを計測するセンサー」とこの取り組みについて説明した。

また「日本で長年実用化が進められてきたペロブスカイト型太陽電池にCNT層を組み合わせると、電池性能が向上する」とも説明(図3)。このペロブスカイト型太陽電池にCNT層を組み合わせる応用開発品は、日本ゼオン自身での開発とは別に、CNTを研究開発している名城大学などでも研究開発を進めている注目の応用開発品事例になっている。

  • ペロブスカイト型太陽電池にCNT層を組み合わせると、電池性能が向上する

    上島事業推進部長が講演でペロブスカイト型太陽電池にCNT層を組み合わせると、電池性能が向上することを説明した図

日本ゼオンCNT事業推進部は、新規材料であるCNTがある一定量以上販売できるCNT利用製品を開発して、同事業の収益を安定させようと、積極的に応用開発を続けている途上にあることをアピールした。

加えて、欧州ではCNT利用時の安全性を確保するために、ある程度の規制が設けられつつある中で、日本では産業技術総合研究所(産総研)が「CNTの社会受容性向上を図るために、そのリスク管理法などを整備しつつあること」を、同氏は強調していた。

産総研によるCNT研究開発の歴史

ZEONANOは、基本となる製造技術などを、産総研のナノカーボンデバイス研究センター(現在の名称、時期によって当該センター名が変わっていることに注意)が見出した基本となる生産技術を基に、日本ゼオンが共同研究などを経て技術移転を受けて事業化したものだ。

CNTの歴史は、NEC基礎研究所にいた飯島澄男研究員が炭素系材料を電子顕微鏡で観察した時に、CNTの存在を発見したことを契機とする。2001年に飯島研究員は産総研兼務の研究員となり、CNTの研究開発とその実用化を図るナノチューブ応用研究センターのセンター長に就任した。この当時の同センターには、現在のナノカーボンデバイス研究センター長である畠賢治氏が、米国から日本に戻った若手研究者として採用され、2004年に「スーパーグロース法」と名付けたCNT合成法を見出し、その技術を確立した。

このスーパーグロース法は、CNTをつくる鉄系触媒粒子表面に対して、合成雰囲気中に、少量の水を添加することで、この水分(水素)が鉄系触媒粒子の表面をきれいにする作用を起こして、構造がきれいに整ったCNTをつくり続ける効果を発揮するというもの。その後も、このスーパーグロース法を改良し続け、途中から2層CNTも安定して作成する技術も確立された。

2007年に、同センターと日本ゼオンは共同で大面積金属板上に直接大量の単層CNTを合成する技術を開発。2011年2月には、同センターと日本ゼオンは高純度単層CNTの大量生産設備の開発を進め、1日当たり600gの生産能力を実現した。

2009年度には産総研つくばセンター内に量産実証プラントをつくり、量産法の実用化を進めた(2009年度経済産業省補正予算事業による支援)。そして日本ゼオンは、同社徳山工場内にSGCNT(SG法で得られる高品位なCNT)製造工場を建設し、2015年11月上旬に工場を竣工し、CNTの量産を開始した。

このCNT量産開始当時から、日本ゼオンCNT事業推進部はCNT応用製品の開拓を続けて、CNT事業の確立に努めてきた。