愛媛大学は2月6日、線維芽細胞を高濃度トレハロースで処理することにより、これまでに報告されたことのない「創傷治癒促進作用を有するセネッセンス(安定的に細胞周期が停止した細胞老化状態)様状態(SLS)」へ一時的に誘導できることを発見し、それを利用して安全かつ迅速に3次元培養皮膚シートを作製することが可能であることを明らかにしたと発表した。
同成果は、愛媛大大学院 医学系研究科 皮膚科学講座の武藤潤講師、同・藤澤康弘教授、同・佐山浩二名誉教授、愛知学院大学 歯学部生化学講座の福田信治講師、山口大学 大学研究推進機構 遺伝子実験施設の水上洋一教授、愛媛大 プロテオサイエンスセンター 細胞増殖・腫瘍制御部門の東山繁樹教授、愛媛大大学院 医学系研究科 分子病態医学講座の川上良介准教授、同・今村健志教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の生物学を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Biology」に掲載された。
糖尿病や静脈瘤などの末梢血流障害により生じる「深達性皮膚潰瘍」は、非常に難治性の疾患として知られる。疼痛や感染など、さまざまな合併症により患者のQOLを落とすだけでなく、世界中で多大な経済的損失にもつながっているという。しかし、同疾患の重要なステップである"欠損した真皮の迅速な再生"を有効に促進する治療法は、現時点では存在していなかった。
そこで研究チームは今回、真皮に存在する線維芽細胞を高濃度トレハロースで処理する方法を用いて、真皮の迅速な再生を試みることにしたという。そして、これまでに報告されたことのない創傷治癒促進作用を有するSLSへ一時的に誘導できることを発見したとする。
トレハロースとは、グルコース(ブドウ糖)が「α,α-1,1-グルコシド結合」してできた非還元性2糖のことで、化学的に安定であり、乾燥などの環境ストレスから生物を守っていると考えられている(脊椎動物における合成経路は未発見)。
高濃度のトレハロースで処理した真皮シート上で作製された表皮シートは、トレハロースを含有しない通常の表皮シート(対照)や低濃度のトレハロースで処理されたシートと比較して、有意に表皮の増殖が促進されており、その結果として表皮シートのサイズが増大していることが確認された。
なお、この皮膚シートには腫瘍性の増殖などの病理組織学的な異常はなく、細胞の遺伝子発現解析でもトレハロース処理群と対照群において有意な変化は見られなかったという。これらのことから、高濃度トレハロースで処理された真皮シートを使うことで、安全かつ迅速に3次元培養皮膚シートを作製できることが明らかにされた。